コラム「みんなの医療制度」 その58

製薬企業の再編はあるか―新薬の価格を下げない新制度が導入

 医薬品の価格を決める薬価制度が大きな転換を迎えています。

 このコラムの42でも触れていますが、特許期間中の新薬の値下がりを抑えるという仕組みが4月から導入されることになったのです。

 製薬企業の経営者は最近、ふたこと目には「厳しい環境に置かれている」とこぼしていますが、医療機関から見たら信じられない営業利益率が10〜30%台の超優良企業がごろごろ転がっています。

 昨年4〜9月の中間決算を見ても、リーディングカンパニーの武田薬品工業が7554億円の売上高に対して営業利益は2425億円(営業利益率32.1%)、アステラス製薬が4946億円の売上高に対して営業利益は1293億円(26.1%)などとなっています。

 金融不況で製造業の多くが赤字転落に苦しむ中、「いったい、どこが厳しいんじゃい!」と突っ込みたくなる数字です。

 医療機関に手当てする財源がまだまだ不足している中、なんで今、製薬企業を優遇しなければならないのか。中医協の委員の間では最後までそんな懸念が消えませんでしたが、厚生労働省が正面突破をして決めてしまいました。

 この新しい仕組みは「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」と呼びます。それまでは「薬価維持特例」という名称でしたが、厚労省が土壇場で名称を変更し、この長ったらしい名称になりました。

下げた分を加算

 医薬品の薬価は2年に1度、卸を通じて実際に医療機関に売られている市場実勢価に基づき、ほとんどが下げられます。

 そこで、全医薬品の平均の値下げ率の80%までをこの加算で戻し、薬価が下がらなくする、あるいは値下がりを少なくするのがこの制度の肝です。

 ただ、すべての医薬品が対象になるのではなく、特許が切れていない、つまり後発医薬品が発売されていない新薬に限られます。そのうち、引き下げられる幅が全医薬品の平均値下げ率を下回っているものにさらに絞られます。厚労省は、350成分が対象になると見込んでいます。

 ただし、いつまでもその加算が付くわけではなく、特許が切れ、後発薬が発売された時点で、それまで累積された加算分は一気に引き下げられるわけです。

 もともと製薬業界が導入を提案していたのですが、厚労省がなぜ、反対意見を押し切ってまで導入を決めたかといえば、理由はいくつか挙げられます。

 まずは、「適応外薬解消等促進加算」という名称にある通り、海外ですでに使用されているにもかかわず、日本で使用できない適応外薬の開発を日本で進めてもらう狙いがあります。いくら患者団体などから開発してほしいという要望があっても、私企業である製薬企業は採算面が合わなければ動きません。

 このため、新薬の薬価を下げなくする代わりに、こうした適応外薬を必ず開発しなければならないというバーター契約を結びました。厚労省から適応外薬の開発の要請があったにもかかわらず、行動しない製薬企業はこの加算が取り消されます。製薬企業は否応なしに適応外薬の開発に取り組まなければならなくなったのです。

 もう1つの狙いは、市場の棲み分けの促進です。

 いまの医薬品市場は、政府が後発薬の促進の旗をいくら振っても、新薬メーカーはもともとのブランド薬(長期収載品)の営業を強化し、シェアを奪われないように対抗しているのが実情です。

 そこで厚労省はこの加算をきっかけに、後発薬のシェアが拡大しなければ、その分、長期収載品の価格を下げて帳尻を合わせる作戦に出ました。特許が切れた長期収載品の市場は、後発薬に譲るという流れを整えたかったのです。

 いまの製薬企業の多くは、長期収載品に売上げの多くを頼っているのが実情で、新制度が定着してくれば、この加算の対象になるような革新的な新薬を開発できない製薬企業の経営は、いずれ行き詰まります。

多い日本の製薬企業

 その結果、何が起きるのかといえば、欧米諸国などに比べて多すぎると指摘されている日本の製薬企業の淘汰につながってくるわけです。これこそが、最大の狙いといっていいでしょう。

 国内の製薬企業に勤務し、医療機関を訪問するMRは約5万6000人いますが、明らかに過剰です。スーツ姿の男性が医療機関のロビーを占拠している光景を見た人も多いことでしょう。

 彼らがどんなことをしているかといえば、ライバル社とあまり効能・効果に差のない製品の処方を増やすため、とにかく医師への訪問回数を競っているのです(シェア・オブ・ボイスといいます)。

 むろん、全部が全部とはいいませんが、市場が大きい高血圧領域などでは、似たような製品が乱立しており、過当な訪問競争が繰り広げられています。

 彼らの人件費は、税金と保険料から成る医療費(薬剤費)から支払われていますが、決して安くありません。MRには勤務医より高い年収1000万円プレーヤーがごろごろしており、人数を減らせば数1000億円単位の医療費がすぐに削減できます。財務省は、薬剤費の削減により、火の車の医療費財源を少しは立て直すことができるとにらんでいます。

 過当な訪問競争に置かれた現場のMRも気の毒です。そんなことをしても決して患者のためにならないことは分かっていても、サラリーマンですから、会社の指示には逆らえません。そんな、後ろめたい思いをしながら医療機関を訪問しているMRは少なくないでしょう。