コラム「みんなの医療制度」 その57

医師の喜びは微妙―2010年度予算案が決定

 民主党を軸にした政権になり、初めての予算が決定しました。

 子ども手当てやら高速道路の無料化やら、農家への所得補償やら、なんやかんやで歳出は92兆円に拡大しました。にもかかわらず、税収は37兆円程度で、歳入の半分程度を借金によって賄うという、通常の家庭では考えられない予算案が組まれました。

 その次の年からは、子ども手当てが倍増されます。今年の通常国会はどうやら「政治とカネ」一色に染まりそうな気配ですが、この国の台所事情はどうなることやら…と解決のあてもない心配をしてしまいます。

 強烈な印象を与えた行政刷新会議の事業仕分けによる歳出削減も、あまり大きな成果を上げられませんでした。ノーベル賞受賞者らからの批判がよほどこたえたのか、歳出でかろうじて1兆円の削減、独立行政法人からの基金の返納など歳入で1兆円増、の計2兆円の財源をひねり出すのがやっとだったようです。

 むろん、2兆円という数字は一般生活からはものすごく大きいのですが、95兆円規模に達した当初の予算要求を削減しようと始まった行政刷新会議の成果としては、物足りないというのが正直なところです。

医師確保などは半額

 ちなみに、医療関連の予算要求で削減されたのが、当初の574億円がほぼ半額に“査定”された医師確保や救急・周産期対策の補助金、600億円が圧縮された後発医薬品のある先発薬などです。医師確保関連の補助金は、診療報酬で工面してほしいという財務省の意向をのんだわけです。

 医療関係者が固唾をのんで見守っていたのは、何と言っても診療報酬改定の行方でしょう。ご存じのとおり、10年ぶりのネットでのプラス改定になりました。

 とはいっても、上げ幅は0.19%。医療費にして700億円、国費にして160億円の金額です。2010年度に総額36.5兆円に達する見通しの医療費全体から見れば、「わずか」といっていいでしょう。

 ただし、医師や薬剤師の技術料や、建物の維持などに充てられる、いわゆる本体部分は1.55%のプラス改定になりました。ここ10年では、2000年の1.9%に次ぐ数字で、金額にすると5700億円になります。このうち、700億円はネットでのプラス分、5000億円は薬価と医療材料費の引き下げで賄うことになりました。

 決して十分ではないかもしれませんが、いまの財政状況では限界の金額でしょう。共産党が政権をとったって、さほど状況は変わらないと思います。

 ただ、今回の改定には、医師にとって屈辱的な内容が含まれています。医科よりも歯科の改定率の方が高いのです。

 実は、本体部分に割り当てられる財源(今回の5700億円)は医科、歯科、調剤の各科に平等に配分されるのではなく、技術料に占める薬剤費の割合によって格差が設けられています。医療機関や調剤薬局が請求する診療報酬や調剤報酬には、医薬品の価格、つまり純粋な技術料とはいえない部分が含まれているため、財源の割り振りでその分を調整するのです。

薬剤費の割合が最も高い調剤を除き、医科と歯科はこれまでほぼ同じ割合で分配されていました。しかし、今回の改定率は、医科1.74%、歯科2.09%、調剤0.52%で、比率に直すと1対1.2対0.3になります。歯科が医科を上回っているのです。

 厚労省の説明によると、歯科は過去の改定で必ずしも適切に財源配分されていないケースがあり、今回の改定でその分を取り戻した、ということになります。

 とはいえ、関係者の間では「政治的な配慮」という見方が専らです。この夏の参院選では、日本医師会と日本薬剤師会の政治連盟はいずれも政権交代前のしがらみから、自民党から組織内候補を擁立する方針を変えていませんが、日本歯科医師会の政治連盟は自民党からの擁立を見送ることをすっぱり決めたのです。

 この“英断”が、民主党の幹事長室に歓迎され、今回の優遇につながったと考えられるのは仕方がないことです。長妻昭厚労相はむろん、記者会見の場で政治的な配慮は一切ないと否定していますが、なぜあえて今回の改定で「取り戻す」ことにしたのか、明確な説明はありません。

中身の議論へ

 その診療報酬の中身の議論については、中医協で佳境の議論が始まっています。それはまた別の稿に譲るとして、予算案に盛り込まれた救急や医師確保関連の新規事業を簡単に紹介します。

 まずは、医療機関がいつでも救急患者を受け入れられる空きベッドを確保するための財政支援です。必ず救急患者を受け入れなければならない医療機関に限定されるのですが、満床であることによる「たらい回し」を防ぐため、いわば政府がベッドを買い上げるわけです。

 文部科学省は、医師の事務を補助する「医療クラーク」870人を全国の大学病院で雇用する予算を計上しました。診療報酬にも、医療クラークの人件費に充てる「医師事務作業補助体制加算」が08年度改定で導入されていますが、大学病院では算定できません。診療報酬でなく、文科省の予算で対応すれば、医療費も膨らみません。

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