コラム「みんなの医療制度」 その55

言いっぱなしの事業仕分け―診療報酬・薬価の行方は

 えっ、これできまっちゃうの?

 会議の模様をインターネットで見ていた医療関係者の中には、そんなことを思った人も少なくないのではないでしょうか。もっとも、真っ昼間に2時間も3時間もインターネットにかじりつくことができた人は恵まれているかもしれませんが……

 民主党が肝いりで設置した行政刷新会議の事業仕分けで、診療報酬や薬価を扱った第2グループが「開業医と勤務医の財源格差の是正」「収益性が高い診療科への財源配分の見直し」「後発品がある先発医薬品の薬価の引き下げ」などを打ち出しました。

 もともと、以前から財務省が一貫して主張していたことが多く、テーマ自体にさほど目新しさはありませんでしたが、驚かされたのはその決定のプロセスです。

 国民にすべてが公開されるなか、被告席に官僚を座らせ、仕分け人と称する民間出身の識者約20人が検事さながらに事業の必要性を問いつめる手法は、「公開裁判」「公開処刑」などと例えられています。

 それぞれのテーマの議論に費やす時間はせいぜい1時間程度。ときに決してかみ合っているとはいえないやりとりが少しばかりあった後、WGをとりまとめる民主党の国会議員が裁判長として「判決」を下すわけですが、決して議論がされ尽くされたとは言い難い状況で結論を出す進め方には案の定、各方面から疑問の声が上がっています。

 中でも、診療報酬や薬価に支出している国庫負担は、「継続」「廃止」でくくれるものではありません。

配分の見直しが狙い

 34兆円の医療費のおよそ4分の1が国庫負担です。当然、廃止などできるわけがなく、今回はその配分に風穴を開ける目的があります。言い尽くされていることではありますが、これまで自民党の厚生関係委員を通じて日本医師会が抱き抱え、決して手放そうとしなかった開業医向けの財源を引きはがすことが最大の目的です。

 WGのメンバーには、学識経験者や地方自治体関係者のほか、小泉内閣時代に市場開放を求めた有識者会議に名を連ねていた金融関係者らもいますが、もっとも存在感を示したのは、公認会計士のA氏です。

 A氏は公認会計士という肩書きながら、病院の経営事情にはめっぽう強く、地方の自治体病院や民間病院の経営現場を知り尽くしています。総務省の公立病院改革に関する有識者会議の座長も務め、過去3年間の病床利用率が70%を切っていたら、再編統合を考えるべしという報告書をまとめました。

 こうしたことから、医療界では過激な意見を出すことで知られています。細かな診療報酬の知識こそありませんが、民間の仕分け人に浴びせられる「素人」という批判は当たらないでしょう。

 そのA氏がWGの会合でまず何を言ったかといえば、中医協から医師や製薬企業の関係者といった利害関係者を委員から外し、すべて第三者の公益委員が決定するよう要求しました。医師や製薬企業の関係者から意見を聞くことはあってもいいが、利害関係者に決定権を与えるのはおかしいという言い分です。

 医療界の常識からすればとんでもないことかもしれませんが、恐らく一般国民から見たらそういう面はきっとあるのでしょう。もっとも、その場ではその意見にだれも賛同しませんでしたが。

 そして開業医が優遇されている現在の診療報酬の配分を否定し、合わせて医薬品の薬価の引き下げも強く要求したわけです。日本医師会や製薬業界を完全に敵視した発言ではあるのですが、これもやはり「国民目線」からみれば、そう見えてもいたしかたない面があるでしょう。

後発品の促進はどうなる

 こうして財務省が描いたシナリオ通り、なんやかんやで冒頭に書いたような方針が決まってしまったわけですが、医療界以上に驚いたのは製薬業界でした。

 後発薬がある先発医薬品(長期収載品)の薬価の引き下げるということがあっさりと決着してしまったからです。長期収載品をどうするかという問題は、国内の製薬企業にとっては非常にナーバスな問題で、これまで慎重な議論がされてきました。

 いま国が必死で取り組んでいる後発薬の促進とはすなわち、この長期収載品が後発薬に切り替わることを意味します。いま後発品がなかなか進まない要因として指摘されているのが、長期収載品と後発品の価格差が少ないことです。後発品の最大のメリットである経済的な恩恵がなかなか実感しにくいという理由です。

 後発品が初めて公的保険で使えるようになるときには、長期収載品の70%の薬価が付けられます。長期収載品が100円だった場合、後発品は70円になるわけですが、医療機関の窓口では患者が支払うのは3割にとどまるため、得する金額は30円と21円で9円しかありません。これでは患者は、積極的に後発品を使おうという気持ちにはなりません。1割負担の高齢者ならなおさらです。

 つまり、長期収載品の薬価を引き下げ、後発薬に近づけるということは、安くなった長期収載品をそのまま使用するという方向に作用し、後発品の使用促進も妨げることになりかねないのです。その結果、後発薬の企業が育たず、先発薬の企業も新薬の開発を怠っていつまでも長期収載品の売り上げに頼るという不健全な状況が続きます。

 確かに、医療費のうち約2割を占める薬剤費を減らすという目的は達成しますが、ちょっと整理が必要です。

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