コラム「みんなの医療制度」 その53

民主支持「茨城」がいよいよ始動――日医会長選に対抗馬

 このコラムの37で、「医療政策は『茨城』」から発信?」なんて書いたことが現実味を帯びてきています。

 先の衆院選で民主党を支援し、圧倒的な勝利に一役を買った茨城県医師会が急速に存在感を強めています。

 茨城県医の政治連盟はその衆院選で、県内の選挙区すべてで民主党の候補者を支援しました。中央の日本医師会の医師連盟が自民支持を貫いたのに対し、その方針に背いて当時は野党の民主党を支えたわけです。

 民主党が政権を獲得した結果、自民党を支援した日医が見放される一方、茨城県医とは強力なパイプが築かれました。その茨城県医の原中勝征会長が先日、来年4月の日本医師会長選挙に立候補することを表明しました。

 すでにいまの日医の唐澤人会長が3期目に向けて出馬を表明していますので、今のところ一騎打ちの戦いが濃厚になっています。

 原中氏は出馬会見の中で、いまの日医の執行部は民主党に政策提言しても受け入れられず、窓口となれるのは自分しかいないと立候補の理由を説明しました。

 日医の会務自体の見直しにも言及しました。

 自らが病院経営者であるため、従来の「開業医の団体」というイメージを払しょくし、勤務医を含む「すべての医師の団体」というスタンスをより鮮明にする方針を示しました。また、70代、80代の「長老クラス」の意見ばかりでなく、若い世代の意見が反映される組織運営を目指したいとの抱負を語りました。

 日医の選挙は、全国の約350人の代議員による投票によって決まります。各都道府県の医師会を代表した面々なのですが、原中氏の指摘するようにその中心は「長老クラス」といって過言はないでしょう。

 代議員には地域の医師会活動を長年にわたって取り組み、郡市区医師会、都道府県医師会である程度、実績を積んだ人が選ばれるため、なかなか若手の意見は日医の会長選挙には反映されません。このため、代議員による間接選挙でなく、すべての会員による直接選挙を求める意見がかねてありますが、実現には至っていません。

●日本医師会は自民一党支援に決別

 原中氏が率いる茨城県医はこれまでも、日医の方針にはことごとく楯突いてきました。例えば、07年の参院選でも日医が支持する組織内の国会議員ではなく、自民党を離党した国民新党の候補者を支援しました。その結果、組織内の国会議員が落選し、国民新党の候補者が当選するという事態になりました。

 また、2008年にスタートした後期高齢者医療制度をめぐっても、かかりつけ医が定期的な患者の健康管理をした場合に請求できる「後期高齢者診療料」の算定をボイコットするという運動を展開し、制度自体の廃止を訴えました。

 日医の執行部は制度の検討段階からかかわっており、いわば当事者ともいえます。必ずしも満足していないものの、最終的に政府の提案を受け入れたことで円滑な制度運営に協力する立場にあるわけですが、執行部は茨城県医の行動によって顔に泥を塗られた格好になりました。

 そして極めつけが今回の民主支援と、会長選への出馬表明です。

 原中氏は恐らく、「古い日医」の象徴ともいえる自民党とのつながりを断ち切ることが、あらゆる組織改革に通じると信じているのでしょう。

 一方の日医も、原中氏の出馬表明の翌日、自民一党支援に決別することを決めました。日医の政治連盟の活動方針にある「政権与党である自民党を支援する」という文言を削除し、白紙撤回したのです。日医が政治活動を初めて以来、恐らく初めての方針転換です。

 今後は、自民党だけでなく、公明党、民主党、社民党など政党を問わず、日医の医療政策を理解し、実行してくれる政治家を支援する「是々非々」にかじを切ったわけで、この判断は、多くの都道府県医師会にも好意的に受け止められているようです。

 ですが、組織内の国会議員をどうするのか?という問題は残ります。日医の政治連盟は2人の自民党の参院議員を持っていますが、先ほども触れたように1人は落選中で、現職は1人(医師)だけです。その現職1人が来年夏の参院選で改選されます。

 5年前の初当選からこれまでずっと支援してきたため、民主党が政権をとったとたん、急に支援をやめるというのはさすがに道義に反すると思ったのでしょう。自民党の候補者ではなく、あくまで医師代表の候補者として支援を続けるべきだという考え方が多いようです。

●本当に選挙になるのか

 いまの日医執行部に対しては、衆院選で支援した自民党が敗北した責任をとって「総辞職するべきだ」という声もありますが、あまり広がりは見せてはいません。むしろ、これまでの政治連盟の活動方針をきっちり守っただけで、「責任はない」と擁護する意見の方が多いようです。

 しばらくは、このまま自民党の組織内の国会議員を支援するにしても、やはり将来は組織内の国会議員は廃止する方向に向かうのではないでしょうか。そのときどきの日医の主張に賛同してくれる政党や政治家を支援するほうが、よほど機動的で効果的だとの意見が以前からあります。

 その点では、民主との関係を前面に打ち出している原中氏をけん制する声が強まっています。政権与党と親密な関係を築くことは当たり前とはいえ、特定の政党に肩入れすれば、再び政権交代したときにまた同じことが起きるのは自明、というわけです。

 原中氏の出馬表明に対し、地方の医師会からはお決まりの文句、「日医を2分してはならない」という声が高まっています。「自民党との距離」が争点になった4年前の会長選挙のしこりはいまだ尾を引いていますが、個人的にはこれも日医の活気につながっているのではないか、という気がします。

 日医会長選はこれまでの歴史で、調整によって立候補予定者が出馬を取り下げるなんてことも結構あります。本当に選挙戦に突入するのか、もう少し見定める必要があるでしょう。

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