コラム「みんなの医療制度」 その49

プラス改定の財源は増えるのか――次期診療報酬の行方

 来年4月の2010年度診療報酬改定はいったい、どうなるのでしょうか。

 いよいよ政権交代が現実のものとなりましたが、来年度の国の予算編成では、ここ最近、ずっと続いていた社会保障費の2200億円の圧縮が撤回されたため、少なくともマイナスになることはありません。

 民主党は選挙期間中、小泉政権から続いていた医療費抑制策からの脱却を打ち出しておりましたので、医師の技術料に当たる診療報酬本体がプラス改定になることは固いのですが、どの程度の規模の医療費財源が回ってくるか、となるとはなはだ心許ないのが実情です。

 2200億円を圧縮しないということは、高齢化や医療技術の進歩などに伴う社会保障費の自然増がそのまま政府の予算として認めることを意味します。ちなみに来年度は約1.1兆円の自然増が見込まれ、これがそのまま予算化されますが、これは8年ぶりのことです。

 では、社会保障費の1.1兆円増がそのまま認められると、診療報酬改定にはどんな影響があるのでしょうか。答えは、「何も影響がない」です。禅問答のようですが、正確にいえば、社会保障費の中で何も予算を組み替えなければ何も影響がないのです。

 診療報酬がプラス改定になるということは、個々の医療サービスの単価が相対的に上がり、医療費が底上げされることを指します。ですが、自然増が認められただけでは、医療サービスの単価は上がらないままの水準で推移することになり、医療費の底上げにはつながりません。

 つまり、どこからか財源を引っ張ってこない限り、プラス改定にはならないのです。

 では、今の段階でプラス改定が固いと言えるのはなぜでしょうか。答えは、薬価と後発医薬品の促進にあります。

●薬価引き下げと後発薬の促進

 繰り返しますが、診療報酬は、医師の技術料に当たる診療報酬本体と、医薬品の薬価を積み上げた薬剤費の大きく2つに分けられます。この2つの合計である診療報酬、つまり医療費が現在、34兆円ほどに上っています。

 本体の改定と違い、実際に売られている値段(市場実勢価)をベースに改定する薬価は少しずつ下がる傾向があり、2年に1度の改定でだいたい国費で1000億円規模の財源が浮きます。ここ数年は、その浮いた分を2200億円の削減に充ててきました。

 しかし、来年度は久々に2200億円を削減しなくても済むため、この浮いた分をそっくり本体に付け替えることができるわけです。そのほか、後発薬の促進に伴い、200億円規模の財源がプラス改定に加わるとみられています。

 仮に1200億円が本体に回ると想定すると、本体はどの程度のプラス改定になるのでしょう。ざっくりとした計算では、34兆円から薬剤費のおよそ7兆円を引いた27兆円が本体の金額になり、1%に換算すると2700億円。このうち、およそ4分の1の680億円が国費に相当するため、1200億円を680億円で割ると、1.7%ぐらいになります。

 もし、公共事業や防衛費をはじめ、年金や介護、生活保護といった社会保障費の異なる分野から余分な予算を医療に回すことができなければ、来年4月の診療報酬全体の改定率はプラスマイナスゼロで、本体のみ1.7%程度から多くて2%台のプラス改定になるというのが目安としての相場になるのではないでしょうか。

●初・再診料の引き上げを

 ちなみに来年4月の改定では、診療所と病院の対立構図がより鮮明になりそうです。先日の中医協では、日本医師会の代表委員が「病院の勤務医が本当に逃げ出したくなるほど激務なのか、疑問に感じる」と発言し、病院団体の委員から抗議を受けました。

 その日医がどんなことを要望しているかというと、最優先の事項が大きく10項目あります。

 列挙すると、

 @初・再診料の引き上げA外来管理加算の5分ルールの廃止B入院基本料の引き上げC救急を担う地域中核病院や中小病院の評価D後期高齢者診療料の廃止E基本診療料に包括された簡単な処置の復活F7種類以上の薬剤投与に伴う薬剤料、処方料、処方せん料の逓減の廃止―などとなっています。

 @の初・再診料の引き上げは、開業医向けであることは間違いありません。診療所の初・再診料は2006年度改定で引き下げられています。その次の2008年度改定でも点数は維持されたものの、日医が今回、見直しを求めているAの外来管理加算の5分ルールやE簡単な処置が包括化されたことなどにより、実質的には引き下げとなっているのです。3期連続の「開業医いびり」は避けたいところでしょう。

 「引き上げ」と名が付く要望は、先に説明した通り、医療サービスの単価の上昇を意味するため、改定のための新たな財源(もしくは別の医療サービスの単価を引き下げる)が必要です。

 ところが現実には、その財源は今のところ1200億円強にとどまることが想定され、とても開業医向けの初・再診料と病院向けの入院基本料をセットで上げられる状況にはないといえます。

 とすれば、改定財源が増えない限り、勤務医の疲弊が依然として深刻な病院の入院基本料を手厚くせざるを得ないのではないでしょうか。民主党もマニフェストの中でそのように掲げています。

English