コラム「みんなの医療制度」 その48

「配合剤」の功罪――後発薬の普及を妨げるか

 今回は医薬品の話題を取り上げます。

 配合剤という言葉を聞いたことがありますでしょうか。2つ以上の成分の異なる医薬品を組み合わせた医薬品を指します。欧米ではすでに普及していますが、日本ではまだあまりなじみがありません。

 いま医薬品業界ではこの配合剤がホットな話題になっています。

 きっかけは高血圧治療薬の配合剤です。製薬企業が高血圧治療薬の配合剤を相次いで発売したことが、政府の目指す「後発医薬品の普及」を妨げているという批判を浴びているのです。

 いったい配合剤と後発薬にどんな関係があるのでしょうか。まずは、医薬品市場のトレンドや背景を説明します。

●5000億円市場の高血圧治療薬

 いま、日本で一番売れている薬は、副作用が少なく、降圧効果が持続するARBと総称される高血圧治療薬で、7社が販売しています。この7社による製品で5000億円という巨大市場を形成しています。

 医薬品の総売上げは年間7兆円に上ります。そのうちの10%近くを占めるのですから、ARBは製薬企業のまさに「ドル箱」になっています。

 その中で、最も売れているのが武田薬品工業の「ブロプレス」。だいたい1500億円の売上げがあります。

 次いで外資系のノバルティスファーマの「ディオバン」、第一三共の「オルメテック」、アステラス製薬と外資系の日本べーリンガーインゲルハイム(日本BI)が共同販促する「ミカルディス」、万有製薬の「ニューロタン」、大日本住友の「アバプロ」、塩野義製薬の「イルベタン」という順になります。

 このARBと、やはり高血圧治療で用いられる利尿薬を組み合わせた配合剤の新製品が今年3月以降、相次いで発売されました。

 それまでは万有のニューロタンと利尿剤の配合剤(プレミネント)しかなかったのですが、武田、ノバルティス、アステラス・日本BI連合が立て続けに投入。第一三共も開発を急いでいます。

 配合剤の発売が認められるには、厚生労働省が定める基準をクリアする必要があります。何でもかんでも組み合わせればいいというものではありません。

 その基準には、@薬剤師らによる混ぜ合わせが難しいA副作用の軽減や相乗効果が得られるB患者の利便性の向上につながるCそのほか配合する理由に化学的な合理性が認められる――の4項目があります。

 今回のARBと利尿剤の配合剤は、Bに当たります。つまり、通常2錠を飲まなければならないところ1剤で済む、といったところで患者の利便性の向上につながると判断され、発売が許可されました。

 実は、この基準には2005年3月までBの規定がなく、それまで医薬品市場に出回っている配合剤は抗HIV薬などごくわずかでした。それが規制改革会議の要望を受け、それまでの基準のハードルを一気に下げるBが加わったとたん、製薬企業はがぜん開発に意欲的になったわけです。

 それでは、後発薬とのかかわりはどうなっているのでしょうか。

 単剤のARB製品はそれぞれ2000年前後に発売され、万有のニューロタンを皮切りに国内でも2012年ぐらいから相次いで特許切れを迎えます。そうなれば当然、成分が同じで安価な後発薬が発売されるわけで、もともと市場が大きい分、大きな医療費(薬剤費)の節約が期待されています。

 しかし、配合剤はあくまで新薬として扱われるため、特許が切れるまでにはまたさらに10年〜15年程度の期間がかかるとみられます。ARB単剤の特許が切れていても、配合剤の後発薬は発売できないのです。

●市場防衛に当たるか

 ARBを発売する製薬企業は当然、後発薬に市場を奪われたくないわけで、医師に対してARB単剤ではなく、配合剤を多く使うよう進めます。実際、高血圧患者の多くは2剤以上の高血圧治療薬を飲んでいるとされ、今までARBと利尿剤を別々に飲んでいた患者はおのずと配合剤を飲むようになるでしょう。

 その結果、ARB単剤の使用が減り、おのずと後発品も普及しなくなることが想定されます。こうした理由から、特許切れを間近に控えた段階での配合剤の発売は、製薬企業による「市場防衛ではないか」と批判されているわけです。

 製薬業界は今、特許期間中に限り、医薬品の単価(薬価)を下げないようにする「薬価維持特例」の導入を求めています。

 これが実現すれば、薬剤費は当然のこと上昇し、たたでさえ少ない医療費財源を圧迫することは明白です。このため、製薬業界は特許が切れた医薬品については後発薬に市場を譲り、差し引きで医療費全体は下がると訴えているわけです。

 ところが現実には市場防衛と受け取られても仕方のない配合剤を発売しているわけで、「言っていることと、やっていることが違う」(医療関係団体)と中医協などの場で突き上げられているのが実情です。

 単剤、配合剤と医薬品の種類が多くなればなるほど、間違えるミスの可能性も大きくなります。とりわけ、調剤薬局ではこれまで以上に在庫を抱えなければならない経営上の問題もあり、恨み節も漏れています。

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