コラム「みんなの医療制度」 その47

基本診療料のやりとりはおあずけ――次期改定の議論スタート

 来年4月の診療報酬改定に向けた本格的な議論がいよいよ、厚生労働省で始まりました。ただ、民主党政権が誕生すればどうなるか分からず、厚労省もとりあえず手探りで進めている状況です。  

 診療報酬改定の手続きのおさらいをします。

 まず、厚生労働相の諮問機関の1つ、社会保障審議会の2つの部会がどのような方向にするかの基本方針を決定します。

 1つが医療機関や医師らの充足にかかわる環境整備、いわゆる医療提供体制を担当する医療部会。もう1つが公的医療保険の運営にかかわる医療保険部会です。

 この2つの部会がまとめた基本方針と、来年度の予算編成の中で内閣が決定した診療報酬全体の改定率を前提に、医療サービスの個別項目の点数をどうするかという具体的な議論を中医協が行います。

 従来は基本方針や改定率、そして具体的な財源の配分にかかわる事実上の決定権はすべて中医協が握っていました。医療サービスを提供する日本医師会などの診療側委員、コストを払う健康保険組合などの支払い側委員の双方が納得する「当事者自治」を原則としてきたためで、厚生労働大臣や政治家は追認するだけでした。

 それが2004年に歯科診療報酬をめぐる診療側委員と支払い側委員による贈収賄事件が発覚し、状況は一転します。

 30兆円を超える医療費の巨大利権を握る中医協は各方面から猛烈な批判を浴び、その結果、改定率を決める権限が完全に引きはがされました。中医協は社会保障審議会の部会が決めた大枠に沿い、こまごまとした点数を付ける機関に“格下げ”されました。

 併せて診療側委員、支払い側委員でもない、第三者の公益委員の権限と人数が強化され、政治力をバックにものをいわせてきた日本医師会の発言権もおのずと制限されました。

●やはり中心は中医協

 一連の中医協改革(07年に改正法が施行)に当たるのですが、次回の改定はこの改革から数えて3回目の改定になります。

 この方式でのこれまで2回の議論はどうだったかというと、やっぱり中医協の存在感は大きいと言わざるを得ませんでした。どの医療サービスの点数を上げ、代わりに何を下げるといった、まさに利権のど真ん中のやりとりは中医協の独壇場だったのです。

 確かに、医療費全体の底上げにかかわる改定率を何%にするかという決定は完全に政府の手に移りました。

 しかし、基本方針を決める社会保障審議会の部会の議論はほぼセレモニーで、まとまった報告書といえば、各方面の委員が好き勝手言ったことが広く薄くちりばめられた総花的な内容で、あまり意味があるものとは言えませんでした。やはり肝は、どの医療サービスの点数が上げられ、下げられるかです。

 さて、そんな部会の議論を意味あるものにしようと考えてか、今年は1カ月以上前倒しした議論が7月から医療部会や医療保険部会で始まっています。11月中に基本方針を決めるようですが、医療部会の初会合である委員が指摘したように「厚労省主催のシンポジウム」の枠から抜けきれず、今回もこのまま緩い議論が続くのでしょうか。

 ちなみにその間、中医協が何をするのかといえば、改定の方向性を決めるような“越権的”な議論はできないため、とりあえず「充実が必要」ということでだれも反対しないような救急や小児、産科などの課題に絞って議論するようです。

 といっても、幅広い議論ができるわけでなく、08年度改定で導入された勤務医対策などの検証が中心になります。例えばピカピカの急性期病院向けに生まれ変わった「入院時医学管理加算」や、医師の事務作業をサポートする「医師事務作業補助体制加算」などがきっちり医療現場で役立っているかという検証です。

●中小病院にこそ予算配分を

 とはいえ、日本医師会や病院団体の委員が最も議論したいのは、収入の要である初・再診料や入院基本料などの基本診療料です。

 08年度改定では、勤務医対策に回す財源を確保するため、再診料の引き下げを見送る代わりに、再診料に上乗せする「外来管理加算」の算定要件が厳しくなりました。しかし、しょせん数字のつじつま合わせであったため、次期改定に向けては、基本診療料の在り方を根本的に議論することが宿題として課されたのです。

 それからすでに1年4カ月が経過しましたが、踏み込んだ議論は1度もされていません。恐らく診療側委員としては「基本料の単価が安い」とぶちまけたい気持ちでしょうが、医療部会、医療保険部会が基本方針を固めるまで本音トークは“封印”されてしまった格好です。

 今年は、大病院重視の予算配分に異変が起きそうな気配があります。過去2回の改定では、「7対1」の新設や先ほどの「入院時医学管理加算」など、少ない財源ながらも大病院を充実させる方向性が打ち出されてきました。救急や小児、産科の医療機能を大病院に集約化させ、勤務医負担を軽減させる狙いがあったのですが、さほど効果がないことが中医協の調査で明らかになっています。

 であれば、患者を軽症の段階できっちり受け止めるゲートキーパーを担う地域の中小病院にこそ、予算を配分してほしいという声が医療関係団体から出始めています。大病院に予算を投入して医療機能を集約化すれば、むしろ患者が集中し、いくら充実させても追いつかない、という理屈ですが、要は「10対1」や「13対1」の入院基本料を上げてほしい、ということなのでしょう。

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