コラム「みんなの医療制度」 その44

DPC制度への出入りが自由に−厚労省は消極的

 大学病院を中心にした特定機能病院を対象に2003年度にスタートしたDPC制度(診断群分類別包括評価制度)が、転換期に差し掛かっています。診療報酬が包括支払いであるDPC対象病院と、従来の出来高支払いの通常病院との出入りの仕組みが変わろうとしています。

 これまでは、DPC対象病院から通常病院に戻ることはほぼ想定されていません。入院基本料10対1以上など一定の基準を満たさなくなった場合のみ、一定の経過期間を経て、強制的に通常病院に戻される、といった枠組みしかありませんでした。

 ところが、DPC対象病院が自らの意思で通常病院に戻ることができる「自主退出ルール」が、新たに定められることになりそうです。DPC対象病院の拡大には、なお否定的な日本医師会が、自主退出を可能とするルールづくりを強く求めているからです。

 厚生労働省が示した原案によると、DPC制度からの自主退出が認められるのは診療報酬改定の前年度末で、遅くとも半年前までにその意思を厚労省に伝えなければなりません。つまり、出られるのは2年に1度の改定がある年の3月末のみで、その前年の9月末までに意思を伝えるということになります。

 仮にこのルールが来年4月の2010年度診療報酬改定から適用されることが決まったとすると、今年9月までに退出意思を伝えた病院に限り、来年3月末に通常病院に戻れるというスケジュールです。

●自主退出の理由は公に

 どういう理由であれ退出は認められるのですが、退出する際に理由を厚労省に伝えなければなりません。また、ここで伝えられた退出理由は、中医協のDPC評価分科会に報告され、事実上、公表されます。ここに厚労省の意図が色濃くにじんています。

 本来、出入りをまったくの自由にするのであれば、個々の医療機関の退出理由は厚労省が把握しておくだけで十分です。あえてDPC評価分科会に報告し、広く周知させるのは、一定の抑止効果を期待してのことです。たとえば「包括報酬より出来高の方が収入がいいから」など、自分本位と受け取られかねない理由であれば、退出を踏みとどまるだろうとの判断です。

 要は、厚労省はDPC制度からの出入りをしてほしくないのです。日医が求めているので、とりあえず形だけでも整えておこうか、という極めて消極的なスタンスであるといえるでしょう。

 原案にはこのほか、DPC制度から自主的に退出した医療機関に対し、次の改定までの向こう2年間、これまでどおり診療データを提出することも義務付けています。出来高に戻った後の診療動向を把握するためですが、これは医療機関にとって大変な労力になります。この点でも自主退出を踏みとどまらせる抑止効果を生むかもしれません。

 なぜ、厚労省がDPC対象病院の自主退出に消極的かといえば、一番に挙げられるのは事務作業の煩雑さでしょう。

 DPC対象病院は、この4月に335の準備病院(07年度準備病院)が加わり、さらに7月から230(同)ほどが新たに加入し、本年度中に1200病院を超す見込みになっています。

 2年に1度の診療報酬改定は通常、診療行為ごとの点数が中医協の議論によって上がったり下がったりしますが、DPCの包括報酬の場合、直近2年間のDPC対象病院全体の診断群分類ごとの平均単価の推移が反映されます。例えば、後発医薬品などを多く使用し、全体のコストを効率化されていれば包括点数も低くなります。DPC制度が「デフレスパイラル」と称されるゆえんです。

 診療報酬改定の谷間の2年間、DPC対象病院数が一定なら作業も比較的、円滑に進みますが、今回、検討されている自主退出ルールにより、DPC対象病院がしょっちゅう変動することになれば、厚労省の事務作業が複雑さを極めることは火を見るより明らかです。

 厚労省は、本年度のように診療報酬改定がない年にDPC対象病院が増えることですら面倒くさいと思っているフシがあります。新規のDPC対象病院の加入も2年に1度に統一してほしいと思っているでしょう。

●DPC病院はどこまで増える

 DPC病院はいったいどこまで増え続けるのでしょうか。

 厚労省は医療サービスを効率化させるために2007年に策定した計画の中で、1000病院を目指す目標を打ち立てましたが、あっさり達成しました。

 加えて、今後DPC対象病院になる医療機関としては現在、本年度にDPC対象病院に移行することを見送っている130施設の07年度準備病院のほか、08年度準備病院もあります。すべてを合わせると1500を超え、早ければ2010年度にはこの規模に到達します。一般病床の半数をゆうに超える規模です。

 実は厚労省は先日の中医協で、09年度準備病院の募集を中止するDPC対象病院の「打ち止め」の提案をしました。しかし、中小病院を代表する一部の委員に反対され、その提案は実現せず葬られました。

 提案が実現しなかったのは、自治体病院に対する配慮であると受け止められています。民間病院と違い、自治体病院がDPC対象病院になるには予算繰りや議会への説明など時間がかかる手続きが必要で、いま募集を止めてしまうと、こうした手続きの最中の自治体病院が報われない、という理由です。

 もっともDPC病院が今後、どれだけ増えるかは、DPC対象病院の経営を安定させるための経過措置として設けられている「調整係数」が、来年4月の改定からどのような形で段階的に改編されるかにも影響します。その議論もだいぶ具体化してきましたので、次回説明します。

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