コラム「みんなの医療制度」 その38

標準医療を実施すれば報酬加算?―DPC新係数の青写真

 急速に拡大しているDPC(診断群類別包括評価)対象病院に適用される新たな調整係数の青写真が浮かんできました。

 DPCの支払い対象となった医療機関は、医療サービスの対価である診療報酬を請求する際、あらかじめ診断群分類ごとに決まった1日当たりの包括点数(手術や1000点以上の処置などは出来高)を請求します。

 ちょっとおさらいしますと、調整係数は、病院が従来の100%出来高請求から一部包括のDPCに移行する際、出来高による収入を保証するために設けられているものです。DPC病院が受け取る包括点数は、診断群分類ごとの平均的なコストである基本点数に、この調整係数や機能に応じた機能評価係数を掛け、上乗せしているのです。


●調整係数は段階的に廃止

 その調整係数が次回の2010年度改定で廃止され、新しい機能評価係数に移行するということで医療現場はその新たな内容を注視しています。ですが、厚労省の有識者会議の議論では1度に廃止するのでなく、2〜3回の改定で段階的に新たな調整係数に置き換えることがほぼ固まりました。

 病院ごとに決まっている調整係数は、1以上であればDPC移行によって出来高請求時より収入が下がった(つまり診療を効率化した)ことを意味します。診療内容を効率化することは本来、望ましいことなのですが、効率化すればするほど収入が下がったのでは医療現場はやりきれません。

 このため、これまで収入の帳尻を合わせていた調整係数を廃止するに当たっては、どんな機能評価係数を新たに設ければ、診療内容の効率化や地域医療に対する貢献が報われるか考慮しなければなりません。

 新たな調整係数の案としては、関係学会などが定める標準レジメンや診療ガイドラインなどに沿った標準的な医療を提供する患者の割合、難易度の高い患者の受け入れ度合い、効率の良い医療を行った度合い、特許が切れた後発医薬品の使用状況、医療計画の4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療、その他)に対応しているかどうかなどを考慮する項目が上がっています。

 ただ、具体化するにはさまざまな課題がありそうです。
 例えば、関係学会などが定める標準レジメンには、がん化学療法で使用する抗がん剤が定められていますが、それに沿って使用するかどうかは、個々の医師の判断や所属する病院の意向などが大きく左右するといわれます。新たな調整係数で、標準レジメンに沿った治療を行う医療機関の診療報酬を上乗せするとなれば、なかなか難しい面も出てきます。

 大腸がんの治療について厚労省は、標準レジメンにあるFOLFOX(フルオロウラシル、レボホリナートカルシウム、オキサリプラチン)という治療法を推奨し、DPCの診断群分類の中で分岐させています。通常、DPCでは薬剤費は包括されていますが、この治療法については使用した抗がん剤の費用請求を認めているわけです。
 ところが厚生労働省の調べによると、このFOLFOXが実施されている割合は、DPC対象病院全体で56%程度です。公表されている例では、東京大学病院が82%、東海大学病院が19%と医療機関によってもばらばらです。


●新薬を使っても評価されない

 標準レジメン治療の割合が高い東大病院は、治療法の選択に当たり「根拠」を重視していると推察できますが、組織の締め付けで推進されているのではないかとの印象も受けます。一方、極端に標準レジメン治療の割合の少ない東海大病院では、どの治療法を選択するか現場の医師の裁量に委ねられているのではないでしょうか。

 ですが、標準レジメンに従っていないからといって、決して根拠を無視しているわけではありません。FOLFOXを実施しない代わりに、大腸がん治療のガイドラインに記載されているFOLFIRI(フルオロウラシル、レボホリナートカルシウム、塩酸イリノテカン)を実施していたり、新薬の副作用の少ない分子標的の抗がん剤(ベバシズマブ)を使用していたりするわけです。

 つまり、新たな医療機関係数で標準レジメンやガイドラインに沿った治療件数が多い医療機関を評価するのであれば、どの標準レジメンやガイドラインを基準にするのかをかなり詰める必要があります。ガイドラインに掲載されていない新薬を用いた場合にどうするかも課題になるでしょう。
 また、医療計画の4疾病5事業に沿った医療機関を新たな調整係数で評価するという意図も分からないこともないですが、制度としてどう落とし込んでいくかがまだ見えません。

 このところの診療報酬改定では、小児科、産科の充実が声高に叫ばれ、重点的に財源が配分されていますが、まだまだ資源の投入が足りないとの声が絶えません。地域事情などを考慮せず、医療計画の4疾病5事業を行う医療機関に財源を一律に振り分けることには慎重な意見もありそうです。


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