コラム「みんなの医療制度」 その36

抜本見直しの正体は「65歳以上」?―後期高齢者医療の迷走続く

 またまた話題になっている小泉首相の下で実施された2006年の医療制度改革の屋台骨がぐらつき、今にも倒れそうな状況が続いています。いったい麻生政権はどう向き合うのでしょうか。厚生労働相に再任された舛添要一氏は、わずか1年で3人の首相の下で働くことになりました。

 4月に始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)は、相変わらずダッチロールを続け、いまだ脱出の兆しは見えません。舛添厚労相は「抜本的に見直す」と事実上の“廃止表明”をしながら一夜で「小幅な見直し」にトーンダウンしたりと、なんだか分かりません。恐らく麻生首相の腰が定まっていないのでしょう。

 もっとも、この後期高齢者医療制度はほぼ10年かかって議論して決めたことです。具体的な制度設計について議論されたのは2年程度でしたが、それでも決して一朝一夕に出来た制度ではありません。それを始まってからわずか半年で「抜本的に見直す」のは、いくら何でも現実的な対応とはいえないでしょう。

 ただ、舛添厚労相は「抜本見直し」を決してあきらめていないようです。「塩爺」こと塩川正十郎元財務相が座長を務める「高齢者医療制度に関する検討会」を設置し、25日に初会合を開いたのですが、この席で舛添厚労相は「まったく自由にきたんのない意見を出し合い、もう一度国民で良い制度にするようにしたい」と自由な議論を求めました。

●舛添氏の魂胆

 委員の顔ぶれを見ても、厚労省寄りの「御用学者」らは排除されています。例えば、、東京医科歯科大学大学院教授の川渕孝一氏はラディカルな発言が売りで、厚労省の「ウケ」が悪く、ここ最近、厚労省の検討会委員にも起用されることはありませんでした。いまになって、わざわざ委員に就任させた意図は見え見えです。

 それになぜ「塩爺」が座長なのでしょうか。恐らく、後期高齢者という立場から制度をばっさり斬ってもらおうという狙いがあったのではないでしょうか。25日の初会合では制度の廃止には当然ながら疑問が投げ掛けられましたが、後期高齢者を75歳以上で区切ることには否定的な意見が出ました。

 個人的には、この辺りが舛添氏が目論む「落としところ」でないかと考えます(ここでは後期高齢者医療制度の中身には触れませんので、ご存じない方はこのコラムの24、25を参照してください)。

 この制度を批判するお年寄りらは、制度設計の狙いや中身を知った上で反発しているわけではありません。単に75歳以上が「後期高齢者」として切り離され、社会からお荷物として切り捨てられるという疎外感から来る感情論と、新たに保険料を払うことになった負担増への不満がほとんどだと思います。

 保険料については、新たに負担することになった被扶養者の保険料の9割を軽減するなどの経過措置がすでに講じられています。経過措置が切れる段階でまた同じような事態が繰り返されるため、決して良策だとは思いませんが、一時的に批判の目をそらすことはでき、いずれは収まると考えられます。

 問題は75歳以上を切り離すことでしょう。もちろん、なぜ区切る年齢が75歳以上なのかは、これまで社会保障審議会などでさんざん議論されてきました。75歳以上になると複数の疾患を抱える割合が高くなるなど、疾病動態が異なるというのが一番の理由でした。もちろん反対もありましたが、最後は厚労省が押し切ったのです。

 75歳のほかで、最も有力だったのが65歳です。例えば健康保険組合の団体などは、65歳以上で区切り、制度を独立させるよう求めていました。このほか労働者団体の連合は、後期高齢者になっても制度を切り離さず、それまで入っていた保険に加入し続ける「突き抜け型」という仕組みを提案していました。

 ちなみに、介護保険は65歳以上が対象となります。2000年度からスタートしてすでに10年近くなり、当初はサービス提供が円滑に進まないなどの問題や批判もありましたが、高齢者の感情を損ねるような反発は起きませんでした。75歳でなく、65歳で区切ることには社会的なコンセンサスも得られるのではないでしょうか。

 実は、母親の介護経験がある舛添厚労相は、もともと介護保険と医療保険を切り離すことには反対なのです。以前、記者会見の席で「将来的には医療保険と介護保険の境目を無くしていくような方向に、保険制度を見直すべき時が来ているのではないか」と発言したこともあります。

●結局は選挙次第

 なぜ、もともと介護保険を創設したかといえば、必ずしも治療の必要がない人たちを医療保険から切り離すためでした。ところが、施設で介護を受けながら必要に応じて医療を受けるには保険制度の違いから何かと障害があり、いっそ統合したほうがいいのではないかとの議論が起こっているのは事実です。

 高齢者医療制度と介護保険制度を65歳からに統一すれいいという意見は、医療系の団体や政界の一部などにもあります。個人的な考えですが、今回の混乱はこうしたかたちで収束するのではないかと思っています。ただ、またもや相当の準備や手間が必要になると思います。

 もっとも、後期高齢者医療制度がどう転ぶか、すべて11月にも予定される衆院選の結果次第、ということは言うまでもありません。

 「とりあえず後期高齢者医療制度を廃止する」という方針を掲げ、元の老人保健制度に戻す法案まで国会に提出した民主党が仮に政権をとれば、またイチから議論が始まるのでしょう。自民党が勝ったって、舛添厚労相がいつまで大臣でいられるかどうか…


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