コラム「みんなの医療制度」 その33

終わりなき混合診療の議論−ちょっとヘンな規制改革会議の論拠

 格差社会を拡大させた「戦犯」とされる小泉内閣の反動か、最近は急速に存在感が薄くなりつつありますが、政府には規制改革会議という会議がいまも存在します。その名のとおり、経済成長を妨げる規制を改革しようという会議で、議長は日本郵船会長の草刈隆郎氏が務めています。

 以前は、オリックス会長の宮内義彦氏が会議の顔でした。小泉首相とほぼ二人三脚で腕を振るったのですが、規制緩和した分野にオリックスが巧みに入り込むという「改革利権」をむさぼっているなどと批判を受け、小泉内閣の退陣とほぼ同じ時期に退任しました。

 宮内氏が議長を務めたのは、現在の会議の前身である総合規制改革会議(2001〜03年度)や、規制改革・民間開放推進会議(04〜06年度)ですが、医療分野では、株式会社による病院経営の参入や、混合診療の解禁をめぐる議論で存在感を見せました。

 混合診療の解禁に当たっては、公的医療保険の範囲を狭くすることで民間医療保険の参入を促し、企業利益を拡大しようとしているとの批判を医療界などから浴びました。結局、技術の高さや効果について国がお墨付きを与えた先進的な医療に限り、条件付きで混合診療を認めることになりました。

●金銭的な恩恵を受けるのは保険会社

 もちろん、全額自費ではなく、一部の自己負担を追加するだけで先進的な医療が受けられる患者の利益や、火の車である公的医療財政の負担が軽減できるなどの観点からの議論は避けられないと思いますが、30兆円規模の巨大な公的医療市場の一部を民間に開放することで最も金銭的な恩恵を受けるのはやはり保険会社でしょう。

 この会議を仕切っているのは、日本経団連であることはほかの委員らも百も承知です。民間企業、とりわけ大企業に好ましい規制緩和しか提案されないのは当たり前といっていいでしょう。繰り返しになりますが、もともと経済成長の障害となる規制を取っ払うために設けられた会議なのですから。

 ちなみに、宮内氏が議長を務めた前身の2つの会議で医療関係の実務を任されていた担当者の中には、オリックス出身者も含まれていました。規制緩和に消極的な厚労省サイドはこうした事実をマスコミなどを使って表に出し、世論を味方に付けようと試みましたが、結果的にあまりうまくいかなかったようです。

 さて、その規制改革会議は先日、恒例の年末の答申に向けた中間報告を公表しました。引き続き混合診療の全面解禁を求めているのですが、中には「?」という主張も含まれています。

 その主張は例えば、山間部などでの医師不足を補うため、遠隔医療を実施するために混合診療の壁が障害になっているという論法です。

●単なる事実誤認

 混合診療は、公的保険診療と、公的保険適用がされない先進的な医療(自由診療)を併用することを指します。国が認めた以外の自由診療を併用した場合には、自由診療のほか、公的保険診療の部分も含め全額が患者の自費負担になります。

 規制改革会議は今回、患者が遠隔診療に利用するため家庭に端末を設置した場合、その端末の料金を医療機関が徴収すれば混合診療になり、患者が診療部分も含めて全額自費負担することになると指摘しているのです。つまり、混合診療を全面解禁しないために患者の負担がかさみ、遠隔医療の提供が妨げられるというわけです。

 「そんなことってあるのかなあ」と思っていたところ、厚労省が反論しました。それによると、遠隔診療の診療に当たる部分は公的保険が適用(患者の負担は原則3割)され、機器の設置料金などは別途、医療機関が請求することは禁じていないとのことでした。このため、規制改革会議の主張する混合診療には当たらず、単なる「事実誤認」である、と厚労省は切り捨てています。

 規制改革会議が混合診療の全面解禁の旗を降ろすことは今後もないと思いますが、今回ばかりはその主張に稚拙さを感じます。その程度の事実関係は、事前に事務局レベルで確認すれば済むことだと思いますが、確認を怠ったのでしょうか。

 規制改革会議という“外圧”があり、厚労省が重い腰を上げ、ちょうど良いところに落ち着くという流れ自体はこれからも堅持するべきだと思いますが、このところは規制改革会議のパワー不足を感じざるを得ません。


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