コラム「みんなの医療制度」 その29

超大型の後発医薬品が発売―医療費抑制の効果は?

 医療費抑制策の切り札として、政府が後発医薬品の使用促進策を打ち出してすでに久しいのですが、この7月から過去最大といえる後発医薬品の発売が開始されました。

 高血圧治療に使われている「アムロジピン」(一般名)と呼ばれる医薬品です。日本ではファイザーが「ノルバスク」、大日本住友製薬が「アムロジン」という商品名でそれぞれ1993年から販売しており、売り上げ額は2000億円(薬価ベース)にも達します。名実ともにいま日本で最も使われている医薬品です。

 アムロジピンは、カルシウム拮抗薬の一種で、血管を収縮させるカルシウムの流入を防ぐことで血管を広げる作用があります。1日1錠で安定的に血圧を下げ、副作用も少ないため、多くの医師や患者に支持されています。

 その成分特許が日本で3月に切れ、後発医薬品メーカー、ブランド薬を扱う先発医薬品メーカー、合わせて34社がこぞってアムロジピンの後発医薬品を発売、2000億円市場の争奪戦が始まったわけです。

●一律30%引き

 34社が発売したアムロジピンの後発医薬品の価格は、先発医薬品の「ノルバスク」「アムロジン」より一律30%引きの金額となっています。もちろん薬効も同じです。同じ成分、同じ価格の商品でいったいどうやって競争するのかが気になるところですが、すでに後発品メーカー同士の熾烈な駆け引きが始まっています。

 まずは価格戦略です。医薬品は薬価という公定価格で定められていますが、流通段階ではいくらで取引しても構いません。つまり、医療機関では100円で患者に販売される医薬品が、卸業者からは85円で納入されていたりします。このため、卸業者や医療機関はなるべく多くの差益を得るため、同じアムロジピンの後発医薬品であれば、とにかく安く売るメーカーの製品を採用するケースも考えられます。高い技術や強固な営業基盤を持たない、特徴のないメーカーは安売り戦略を仕掛けてくると思われます。

 次にブランド戦略です。日本ではまだ後発医薬品に対する信頼性は確立されておらず、ひと昔前の「安かろう悪かろう」のイメージが残っています。とりわけ医師や薬剤師になるとその傾向が強まります。ブランド薬も販売するエーザイや田辺三菱などの後発医薬品子会社はそこにつけ込み、価格でなく、知名度と信頼性を最大の売りに営業展開しています。最近は後発医薬品の専業大手、沢井製薬なども盛んにCMを打ち、ブランド戦略を強める傾向にあります。

 中小零細のメーカーで最も多いとみられるのが、製剤方法やパッケージの工夫です。後発医薬品はもともと薬効に影響する主成分は同じですが、錠剤をつくる製剤方法や添加物は異なっても構わない決まりになっています。生物学的同等性試験という試験で、先発医薬品と主成分の血中濃度が一致すれば、薬効も同じであるとみなされます。

 アムロジピン後発品もアムロジピンという主成分は同じですが、すべて同じわけではありません。メーカーや製品によってミネラルが異なる水に例えると分かりやすいと思います。つまり、まったく同じでなくていいことを逆手に取り、ミネラルやパッケージで勝負するわけです。

 例えば、あえて先発医薬品と添加物を変えて湿気に強くしたり、錠剤を割りやすくしたアムロジピンの後発医薬品もあります。また、誤飲や医薬品の取り違えが起こらないよう錠剤が入ったPTPシートの印刷を読みやすくしたメーカーもあります。少量パックで「お試し」で勧めやすくする工夫などもあります。

●一割普及で60億円が削減

 では、アムロジピンの後発医薬品の登場によって、どの程度の医療費が削減されるのでしょうか。例えば、アムロジピンの売り上げ2000億円のうち、1割が後発医薬品に切り替わったとすると、単純計算で200億円の3割が削減されるわけですから、60億円が削減されることになります。

 政府は本年度、後発医薬品の使用促進によって220億円の医療費(国庫負担)を削減することを見越して予算を組んでいるため、是が非でも切り替えを進めたいというのが本音です。ですが、あらゆるメーカーに販売してほしいとは思っていません。むしろ、販売体制が整ったメーカーだけに販売してほしいという考えなのです。

 なぜかというと、安かろう悪かろうの商品(実際にあればの話ですが)が流通すれば、後発医薬品全体に対する信頼性が低下することになるからです。

 このため、政府はアムロジピンの後発医薬品を販売するメーカーに対し、必ず5年間以上、販売を続けるよう要求しました。約束をしないと販売を認めないという強攻策に出たのです。とにかく安く売って、在庫がなくなったらそれでおしまいという「売り逃げ」は許さないという強い意思の表れです。

 後発医薬品メーカーの中には、売り上げが数億円規模の弱小メーカーもあり、5年間の安定供給に耐えられず、淘汰されるところも出てくるのではいかと予測されています。まさにそこが厚労省の狙いなのです。

 後発医薬品同士の争いが加熱する一方、ファイザーや大日本住友も先発医薬品の市場を守ろうと必至に医療機関や調剤薬局に売り込みを掛けています。この勝負、少なくとも5年ぐらいの長期戦になるでしょう。


English