コラム「みんなの医療制度」 その27

年金「全額税方式」で医療は枯れる−国民に選択肢を

 旧聞ですが、日本医師会が4月の会長選挙で唐澤人会長を再選し、新たなスタートを切っています。

 常任理事には、過去の選挙選のしがらみから前執行部と距離を置いていた近畿地方や中国・四国地方の出身者も加わました。これで北海道から九州までほぼまんべんなく執行部に加わり、「オールジャパン」の体制が出来上がったというわけです。

 もっとも、日医の執行部にどう対峙するかで意見が割れている大阪府医師会は、まだもめているようですが…。

 今回、唐澤執行部に課せられた最大の使命は、なんと言っても小泉内閣が決定した社会保障費の歳出削減を撤回させることではないでしょうか。これまで何度も取り上げていますが、政府は2007年度〜2011年度までに社会保障費の伸びを1.1兆円削るという方針で、平均で毎年2200億円の圧縮が求められています。

 この方針は、政府の最高の意思決定である閣議決定がされています。撤回されない限り、死守しなければならないことはいうまでもありません。

 07年度は雇用保険制度などの見直し、08年度は薬価の引き下げやトータルではマイナスとなった診療報酬改定などで何とか2200億円を工面してきましたが、09年度以降はもう限界、という叫び声がかねて舛添要一厚生労働相や自民党の厚生関係議員から飛び出しています。

●福田首相に直接要求

 唐澤会長は、社会保障制度の在り方を議論している政府の社会保障国民会議のメンバーでもあり、この場で同席していた福田首相に直接、撤回を要求したようです。

 一方で、財務省や内閣府は、歳出削減の手綱を緩めてはならないというスタンスに変わりはありません。財務省は09年度の予算の骨格を検討する財政制度等審議会で、診療報酬の中身を議論する中医協改革がまだまだ手ぬるいと指摘しています。医療にはまだまだ削減の余地があると考えているのです。

 こういった膠着状態が続いたまま、いよいよ今年も09年度予算の大枠となる概算要求基準をめぐる折衝に突入するわけです。政治を取り巻く環境を眺めて見ると、歳出削減どころか歳出増の話題でいっぱいです。悪評が続く後期高齢者医療制度にはどうやら保険料の軽減策などの追加負担が避けられない見通しで、年金制度も全額税方式の論調が目立ってきました。

 4月からのスタート以降、混乱続きの後期高齢者制度の追加負担は、抜本的な制度の改正が行われない限り、恐らく一過性のものでしょう。主に低所得者に照準を絞ったものと予想され、財源に与える影響も限定的だと思います。

 しかし、年金制度はそうはいきません。もし、全額税方式になったら、それこそ未来永劫、社会保障財源で医療に回ってくる財源はほぼ皆無とみてもいいのではないでしょうか。与党や新聞社のなかにも全額税方式を主張する意見がありますが、長期的な視野に立った検証が必要だと思います。

●消費税率は10〜12%

 政府がまとめによると、基礎年金を全額税方式に切り替えるとすると、09年度ベースで4.5〜13%の消費税の引き上げが必要になるとされています。現在の5%の税率と合わせれば、9.5〜18%ということになります。福祉先進国とされるEU加盟国の消費税率が15%程度であることを考えれば、さほど驚く数字ではないのかもしれません。

 しかし、今後の自然増分を考慮すれば、まさに「虎の子」である消費税の財源はこれでほぼ使い果たされることになります。医療はおろか、介護、少子化対策にもほとんど財源が回ってこなくなる恐れがあります。むろん選挙戦などを通じ、多くの国民がこれを「良し」とするのであればいいのですが、現時点ではあまりに判断材料が不足している、と言わざるを得ません。

 すでに周知のことですが、厚労省の見通しでは、2025年の医療費の国庫負担は48兆円と現在よりもさらに20兆円以上、増えることになっています。これまで厚労省の見通しは実績を大幅に上回っている(つまり過大に見積もっている)ことが多いのですが、それでも大幅な負担増となるのは確実です。だれがどのように賄うのか、だれも分かっていません。

 社会保険庁のでたらめな管理によって露呈した年金の「社会保険方式」には確かに問題があります。ですが、ここで一気呵成に全額税方式に傾くとなるとまた、さまざまな問題が生じてきます。われわれもむろん、傍観者であっていけません。人口減少と少子高齢化を乗り切るため、知恵を出し合うことが必要なのですが…妙案はなかなかありません。


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