コラム「みんなの医療制度」 その26

処方せんの「変更不可」にわざわざサイン−組織決定の医療機関も

 新薬(先発医薬品)の特許が切れた後、別のメーカーが同じ成分を利用して安価に製造した後発医薬品。厚生労働省は医療費抑制対策として後発品の使用を拡大させようと、4月から処方せんを再び変更したほか、調剤薬局に対して後発品を多く調剤した場合の報酬加算を設けたりするなどの措置を講じました。

 処方せんは2年前の4月にも大きく変更されています。医師は通常、処方せんに先発品を記載しますが、調剤薬局で後発品に変更されても構わないと判断した場合に、「変更可」の欄にサインする方式を採用しました。当時の日本医師会はこれだけでも「処方権の侵害だ」と強く反発したものです。

●従来は2割どまり

 ところが、サインをするのが面倒くさいのかどうか、「変更可」の欄にサインされた処方せんは全体の2割にも届きませんでした。さらにこのうち、実際に調剤薬局で後発品が調剤されたのは1割に満たず、全処方せんのうち、後発品が調剤された処方せんの割合は1.4%止まりでした。

 政府は2012年度までに後発品の市場シェア(数量ベース)を現行のほぼ2倍の30%以上に引き上げる目標を掲げています。ところが、1.4%しか後発品が調剤されない状況では達成は夢のまた夢です。このため、この4月には「変更不可」の場合に限り、医師が処方せんにサインするという逆の方式に変更したのです。

 これが功を奏し、大手調剤薬局のデータによると、4月当初の「サインなし」(変更可)の処方せんの割合は5割〜6割に跳ね上がりました。ただ、同時に気になることも判明しました。サインのない処方せんがゼロで、ご丁寧にわざわざ全部の処方せんにサインをしてくる医療機関のあることが判明したのです。

 医療界には、療養担当規則という決まりごとがあります。法律ほど拘束力は強くないのですが、医師や薬剤師の業務上の注意事項が定められています。今回の処方せんの再変更に合わせ、医師に対して、「後発品の使用を考慮する」という努力義務が盛り込まれました。なんとしても後発品を普及させようという国の強い意気込みです。

 一部の医療機関は組織的な決定に基づき、医師にサインをさせていることが分かりました。調剤薬局側は、医師が後発品を使用する努力義務を怠っているとして「療養担当規則に違反するのではないか」と猛反発です。無理もありません。サインのある処方せんでは、後発品を調剤することができないからです。

●基準満たせば4点加算

 調剤薬局に対しては4月から、1件当たりの調剤基本料が2点下がった代わりに、後発品調剤率が30%以上の場合を条件に4点を加算する方式が導入されました。30%以上の基準を満たさないと加算は取得できず、収入は目減りします。調剤薬局は後発品の調剤を是が非でも増やさなければいけないのです。

 医療機関はなぜ、後発品に変えたがらないのでしょうか。まずは、後発品の品質に対する不信感でしょう。後発品は製造販売に必要な承認を受ける際、先発品と効果が同じであることを示す生物学的同等試験をクリアする必要がありますが、添加物や製剤方法まで同じであることは求められていません。臨床試験も行われていません。

 このため「万が一、添加物によるアレルギーなどの副作用が発生したらどうするんだ」と生真面目な医療機関であるほど、使用に慎重になる傾向があります。

 それに調剤薬局に対する不安があります。医療機関のまったく知らないところで薬が変えるのはやめてほしいというわけです。本来、医師の選んだ成分に従い、どんな銘柄を選ぶかはまさに薬剤師固有の調剤権に属すと思うのですが、医師と薬剤師との関係が成熟しない限り、難しいでしょう。

 そして、いかにもウェットな業界であると印象付けるのが、大学病院などによる先発メーカーへの気遣いです。大学病院の医師は、論文を書くための研究費を先発メーカーに頼っている場合もあるため、後発品への変更を認めれば先発メーカーに対する「背任行為」と受け取られかねません。後発メーカーは資金不足で、とても研究費まで拠出できません。

●後発品の主導権は医師

 また、中には物理的に後発品に変更することが難しい先発品もあります。先発メーカーは新薬の特許切れ対策の1つとして、最初に承認を受けた適応病名を段階的に増やし、その新薬の価値を高める戦略をとります。特許は適応病名ごとに切れるため、後発品は特許が切れた適応病名にしか使うことはできません。

 こうした事情から医薬品の中には、後発品と先発品の適応病名が違うというケースが結構あります。例えば、武田薬品工業の潰瘍治療薬「タケプロン」は、ピロリ菌除去の適応も追加されていますが、後発品にはありません。処方せんには病名は記載されていないため、サインのない処方せんを受け取っても薬剤師はどの適応病名なのか分からず、後発品に変更することに慎重になります。

 結局、サインのない処方せんがいくら増えても、現段階では後発品を使うかどうかの主導権は医師が握っています。いくら薬剤師が後発品についての情報を提供を提供しても、後発品を使うかどうかの判断能力は患者にはなく、まずは主治医にお伺いを立てるケースがほとんどなのです。

 患者には、勝手に後発品を使うことを決め、医師の機嫌を損ねたくないという心理も働くのでしょう。


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