コラム「みんなの医療制度」 その25

地域医師会が定額報酬にそっぽ−後期高齢者医療制度 (下)

 4月からの後期高齢者制度のスタートに伴い、診療報酬の仕組みも変わりました。

 2008年度診療報酬改定で後期高齢者を対象にした診療報酬が新たに設けられたのです。中でも代表的なのは「後期高齢者診療料」(6000円、月1回)と呼ばれる月額の定額料金です。ですが、この診療料をめぐっていま、地域の医師会でちょっとした騒動が起きているのです。

 後期高齢者診療料は、慢性的な疾患を抱える後期高齢患者の「かかりつけ医」の役割を果たす医師(原則として診療所の医師)のみが算定できます。複数の疾患を抱える後期高齢者の患者に対し、年間を通じて継続的に健康管理を行った場合に、先ほどの6000円を月に1回、請求するわけです。

 かかりつけ医は、あらかじめ決められた研修を受けている必要があり、患者の同意に基づいて診療計画書を作成し、定期的な検査や診療を通じて健康管理することが求められます。また、検査の日程などを記した年単位の診療計画書の作成のほか、月初めの受診時には当日の検査結果や次回の受診日時などを記載した書面を交付することも必要です。

●検査や処置は丸め

 6000円の点数の中には、健康上のアドバイスや検査、処置、画像診断料などが含まれています。一方、初診料や再診料、投薬、注射、リハビリ、専門的な精神科治療などは従来通り、出来高で算定できます。

 ただ、検査や画像診断でも、突然の頭痛の訴えに対するCT撮影など、緊急性を伴う550点以上の項目も出来高で算定できます。

 ただし厚生労働省は、患者1人につき、1カ所の医療機関しかこの後期高齢者診療料を算定できない仕組みにしました。複数の疾患は抱えるものの後期高齢患者の主病はあくまで1つで、身近な1人の医師が診るのが望ましいという主張なのですが、これに茨城県医師会など一部の都道府県医師会がかみつきました。

 茨城県医師会の言い分と対策はこうです。(1)「1患者1医療機関」は実態に合わない(2)後期高齢者診療料の届け出を行わず、出来高払いで算定する(3)後期高齢者診療料の届け出条件である研修会の開催を行わない─です。

●届け出を拒否

 後期高齢者診療料を算定するには、必要な条件を満たしたうえで地域の社会保険事務所に届け出ることが必要ですが、茨城県医は厚労省に対する抗議の意味を込めて会員に届け出ないよう求めています。届け出なければ、すべて従来通りの出来高方式で算定することになります。

 ところで、「1患者」に対する「1医療機関」は、どうやって決まるのでしょうか。厚労省によると、後期高齢患者の主病として認められる慢性疾患を診療する医療機関なのですが、果たして主病と副病はきれいに区別できるのでしょうか。

 答えは簡単です。厚労省は、後期高齢者の主病として13(糖尿病、脂質異常症、高血圧性疾患、認知症、結核、甲状腺疾患、不整脈、心不全、脳血管疾患、喘息、気管支拡張症、胃潰瘍、アルコール性慢性疾患)の慢性疾患を定めています。

 後期高齢者診療料を算定するためにまず、医師はこの13の主病について、患者がほかの医療機関を受診しているかどうかを確認するわけです。自分の医療機関だけで診察しているのであれば、後期高齢者診療料を算定することは可能です。一方、13疾患についてほかの医療機関も受診していれば算定できません。

●制限されているわけではない

 日本医師会の元幹部は、医療機関は単にこうしたルールに沿い、後期高齢者診療料を算定するのか、しないのかを決めればいい、と主張しています。「算定できないのであればこれまで通りの出来高で算定すれば済む話。1患者1医療機関に制限されているわけではない」などと反論しています。事実、患者も「かかりつけ医」のいる医療機関しか受診できないわけではありません。

 厚労省の担当課長は、茨城県医師会などのこうした対応について「なぜ患者の要望に応えようとしないのか。患者の要望に応えたいと考える診療所医師の意欲をそごうとしている」などとあきれ顔です。茨城県医師会の対応は、高齢者のかかりつけ医になることを拒む「職務放棄」と映らないこともありません。

 中医協の議論では、中小病院出身の委員が後期高齢者診療料を中小病院にも算定できるようにするよう求めましたが、厚労省のこの担当課長は突っぱねました。せっかく良かれと思い算定できる医療機関をほぼ診療所だけに限定したにもかかわらず、こんな仕打ちを受けるとあっては、恩を仇で返されたような心境でしょう。

●登録医制度に警戒

 都道府県レベルの医師会を束ねる日本医師会は、この後期高齢者診療料に直接的には反対していません。ただ、英国のGP制度のようにいずれ完全な登録医制度につながるのではないかとの警戒感を強く抱いているのは事実です。実際、その可能性は十分あるでしょう。国民健康保険系の団体はこの登録医制度を強く推奨しています。


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