コラム「みんなの医療制度」 その23

「地域の一般病院」はお呼びでない?−厳しい社会医療法人の要件

 昨年4月の医療法改正で創設された医療法人の新たな類型「社会医療法人」がこの4月からようやく動き出しました。どうすれば社会医療法人になれるのか、具体的な基準を示した厚生労働省令も告示され、いよいよ都道府県での認定作業がスタートします。

●1年間にわたって凍結

 実は、社会医療法人の制度自体は昨年4月にできていました。しかし、社会医療法人にどのような役割を持たせるかを明記する都道府県の医療計画が固まらないうえ、税制をどうするかも決まっていなかったため、1年間にわたって凍結されていたのです。

 社会医療法人は、非営利性の非常に高い医療法人で、経営が厳しい自治体病院の受け皿になることが期待されています。一般的な医療法人(社団)も非営利の法人ではあるのですが、役員は法人の清算時などに出資額に応じて利益の分配を受ける権利(持ち分)があるなど、必ずしも非営利とは言い切れません(医療制度改革のポイント(13)〜(15)を参照)。

 しかし、社会医療法人の役員には持ち分がありません。法人を解散して残る財産は、国や地方自治体などに帰属します。すでにある医療法人財団や特別医療法人(社会医療法人の創設に伴って経過措置後に廃止)、特定医療法人にも持ち分はありませんが、高い公益性が求められる社会医療法人には役員の給与基準の公表も必要になるなどより厳しい運営上の要件をクリアする必要があるのです。

●医療の法人税は非課税

 厳しい条件が課されるだけではだれも社会医療法人になるわけがなく、むろんメリットもあります。

 なんといっても最大の目玉が税制です。厚労省は制度設計をする段階で一般の医療法人に比べて法人税率を優遇することを掲げていましたが、そもそも厚労省にそんなことを決める権限はありません。結局のところ、財務省や政治家に頼み込むしかなく、本当に実現するのか、関係者はこの1年、やきもきさせられました。

 そして昨年末に財務省から引き出したのは、医療保健事業は非課税、収益業務は22%という「満額回答」でした。つまり、社会医療法人に対する法人税率(一般の医療法人は30%)は、通常の診療業務は非課税、収益事業にも軽減税率が適用されることになったのです。

 社会医療法人は一般の医療法人にはできない収益事業を展開できます。収益業種の範囲も広く、極端に言えば、ギャンブルや風俗といったたぐいを除けば、ほとんど何でもできると行っても過言ではありません。ただし、収益事業などの収入はすべての収入の20%以内に抑えなければなりません。

●5事業のいずれかの実施が要件

 社会医療法人になるには厳しい運営上の要件に加え、「救急医療」「災害医療」「へき地医療」「周産期医療」「小児救急」の5事業のいずれかを担うことが求められ、それぞれに具体的な基準が定められています。実はこれを満たすのが厳しいという声が出ています。

 例えば救急医療の基準としては、急患の受け入れに必要な設備を整えているのはもちろんのこと、都道府県の作成する医療計画に救急医療を担う医療機関として自分の病院がきっちり記載されていることが求められます。これまでの特別医療法人のように、運営上の要件を満たしただけでは社会医療法人になることはできないのです。

 これだけならまだいいのですが、急患を受け入れた実績も必要になります。厚労省は、次の(1)(2)のいずかを満たすことを求めています。

 (1)直近3年で、初診患者のうち、時間外加算を算定できる時間帯(原則として午後6時〜午前8時まで、医療機関によって異なる)や休日に受け入れた初診患者の占める割合が20%以上(2)直近3年で、夜間(午後6時〜午前8時まで)か休日に患者が救急車などで運び込まれた件数の平均が750以上−のいずれかを満たす必要があるのです。

●都市部の病院しか無理?

 北陸地方のある病院長は、(2)について「厳しい」と指摘しています。時間外の救急車の受け入れ件数が平均で年750以上となる医療機関は、ある程度人口の多い都市部に絞られてしまうと嘆いています。

 一般病院が最も実行しやすい救急医療でさえ、ハードルは決して低くありません。ましてや周産期や小児救急の要件は、専門病院でもない限り満たすことは困難です。災害医療の基準では、厚労省の登録する災害派遣医療チーム(DMAT)を持つことを求めており、先の病院長の言葉を借りるなら「地域の一般病院はお呼びでない」ということになります。

 厚労省の担当官は「特定医療法人407法人のうち250法人程度は社会医療法人の認定要件を満たすことができる」と期待しているようですが、さて結果はいかに。


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