コラム「みんなの医療制度」 その9

1人に1枚の社会保障カード−年金記録問題のどたばたの末に

 世間を大きく騒がせた年金記録問題の解決策のひとつとして、政府は社会保障カード(仮称)の導入を打ち出しました。国民に1人1枚が交付し、2011年度をめどにサービスを開始したいということです。

 この社会保障カードがあれば、年金のほか、健康保険や介護保険の加入歴などもひと目で分かるようになります。基礎年金手帳や保険証の機能を1枚のカードに集約するため、これまでのようにばらばらに保管する必要はなくなります。

 カード自体に情報を詰め込むではなく、添付したICチップがいわば「カギ」となり、政府が管理するサーバーなどから必要な情報を引き出すことができるようにします。カードには固有の番号も付けますが、基礎年金番号を使うのか、住基ネットのコードを使うのか、はたまた新たな番号をつくるのか、具体的な検討はこれからです。

 ただ、この構想は、参院選前に年金問題を片づけたかった与党主導で急ごしらえされたため、これまで進めてきた政策との整合性はすべて後回しにされました。この影響を最も受けたのが厚生労働省です。

●2次元バーコードは白紙に

 厚労省は今回の年金記録問題とはまったく関係なく、病気の疾患歴などを履歴できる「健康ITカード」(仮称)を創設する準備を進めていました。医療サービスや介護サービスの提供コストを圧縮するプランの一環です。3月に発表したばかりで、まさに本格的に検討に入る矢先でした。

 さらに、来年4月からは健康保険証に2次元バーコードの表示を義務付けるはずでした。医療機関で被保険者の資格があるのかを瞬時にネットワークで確認できるようにするためです。この仕組みが整えば、期限切れの保険証を使って診療を受け、一部負担金を踏み倒すような悪質な患者は激減します。

 ところが突如、政府が社会保障カードの導入を発表したことで、この厚労省の2つの政策がいずれも白紙に戻りました。バーコードの義務付けについては、省令改正のために必要なパブリックコメント(国民からの意見)を募集する手続きまで済ませていましたが、あえなく葬り去られることになったのです。

●「電子私書箱」も

 これですべて調整が済んだわけではありません。政府内では、さらにもう1つ「電子私書箱」という構想が進んでいます。こちらは2010年のサービス開始を目指しています。

 電子私書箱には、患者本人の情報であるにもかかわらず、自由に入手、活用できない診断や検診の結果などを一元的に収集します。医療機関が保有する電子カルテや、学校や保険者が保管するレセプトや健診結果など、社会保障サービスにかかわるすべての情報が対象となります。

 社会保障サービスにかかわる情報は、進学や転居、転職などによって分断されることが多いため、電子私書箱では、それぞれの情報を時系列につなぎ合わせるなど分かりやすく把握できるようにします。

 例えば健診結果については、幼少期からのデータの推移をグラフにまとめることなどが考えられます。また、専門用語の多い電子カルテは、要約のみを簡潔に表示する工夫などが検討されています。

 電子私書箱には、ユーザーIDによってパソコン上でアクセスできる仕組みを想定しています。社会保障カードに通じる面も多々ありますが、役割分担や融合性の議論はすべてこれからです。本当に実現するのでしょうか。個人的には半信半疑ですが…。


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