コラム「みんなの医療制度」 その7

喫煙率低下の数値目標はかなわず−がん対策基本計画

 政府は、向こう10年のがん対策の取り組み指針となる「がん対策推進基本計画」(基本計画)を閣議決定しました。

 死亡原因のトップになって久しいがんにどう向き合うか。もはや決して人ごとでなく、4月には議員立法によるがん対策基本法が施行されました。同法は、政府が基本計画を策定することを義務付けています。

 確実な成果を挙げるため、基本計画にはさまざまな数値目標を盛り込みました。ちょっと長くなりますが、計画の要旨を紹介します。

 まずは全体目標です。 ①75歳未満のがん患者の死亡率の20%削減 ②がん患者や家族の苦痛の軽減と生活の質向上−の2点です。そのうえで、これを達成させるためにさらに10の個別目標を定めています。

 次に個別目標です。特に専門医の不足が指摘されている「放射線」と「化学」の2つの治療を取り上げ、5年以内にすべての「がん診療連携拠点病院」(拠点病院)でこの2つの治療を実施できるようにします。

●5大がんの治療は医療機関が連携

 拠点病院とは、全国のがん治療水準を均一にするため、地域の医療機関に最新技術などを普及させる役割を担います。3年以内に人口30〜50万人程度ごとに区切られた2次医療圏(358カ所)に1カ所の整備を目指しています(現在、約290カ所に整備済み)。

 また、拠点病院で5年以内に、5大がん(肺・胃・肝・大腸・乳)の「地域連携クリティカルパス」(連携パス)を運用することにしています。連携パスは、がん治療を受ける患者について、2次医療圏内の複数の医療機関が共有する治療計画のことで、治療内容や期間、医療機関ごとの役割分担が明記されています。

 欧米に比べて普及が遅れている緩和ケアの充実も盛り込まれています。

 がんの痛みを和らげる緩和ケアは、日本では主に末期患者に施すものという先入観がありますが、治療の初期段階から行うことで患者は苦痛から解放され、日常と変わらない生活を送ることができます。

 これを踏まえ、計画では10年以内にすべてのがん医療に携わる医師が、研修などを通じで緩和ケアの基本的な知識を習得することにしました。さらに、5年以内には全国のすべての2次医療圏で専門知識をもつ医師を含むケアチームが整備されます。

●協議会は「喫煙率の半減」支持

 肺がんの最大の原因とされるたばこ対策についても、当初は喫煙率を引き下げる数値目標を定める予定でした。同法に基づき、基本計画の内容を議論していた厚生労働省の「がん対策推進協議会」で、すべての委員が「成人喫煙率の半減」を盛り込むよう支持していたのです。

 ところが、政府の計画に反映させるとなるとそう簡単にはいきません。たばこを健康問題ととらえれば厚労省の担当ですが、税や農業の問題ととらえると財務省や農林水産省の担当になります。つまり、厚労省の単独では判断できないわけです。特に財務省は、たばこ税の減少に直結する喫煙率の低下には猛反対です。

 結局、基本計画のたばこ対策は「適切な受動喫煙防止対策を実施すること」「未成年者の喫煙率を3年以内にゼロにする」など、かなりトーンが緩くなりました。もっとも、厚労省がもし、強引に数値目標を基本計画に入れても、おそらく閣議決定には至らなかったでしょう。

●過去にも断念

 喫煙率の数値目標をめぐる議論は、何もいまに始まったわけではありません。

 食生活や生活習慣を改善するため、さまざまな項目で数値目標を定めている国民運動「健康日本21」(期間2000〜10年)の見直しでも、議論になりました。当初は喫煙率の目標値を追加する流れだったのです。

 厚労省の厚生科学審議会・地域保健健康増進栄養部会は昨年末、成人の喫煙率を現状の男性43.3%、女性12.0%から、 ①30%以下、10%以下 ②35%以下、10%以下 ③25%以下、5%以下−にすることを目指す3案を提示し、いずれかに絞り込む予定でした。

 しかし、やはり最終的に厚労省は数値目標の導入は断念せざるを得ませんでした。嗜好(しこう)品でもあるたばこについて、喫煙率の数値目標を設定した場合、喫煙者の禁煙意欲をかえってそぎかねない、というのが理由でした。

 代わりにどんな表現が盛り込まれたかといういうと、「喫煙をやめたい人がやめる」。ほとんど冗談のような世界ですが、これが現実です。