コラム「みんなの医療制度」 その6

政府・与党が医師確保緊急対策−ホントに長続きするの?

 政府・与党が5月末、医師不足を解消するための「緊急医師確保対策」をまとめました。7月の参院選に向け、与党が急ごしらえしたものです。へき地などで医師が不足する現状への強い危機感の表れではありますが、緊急対策の内容はというと新鮮味に欠けるといわざるを得ません。

 緊急対策には、6項目が記されています。 ①国レベルでの緊急臨時医師派遣システムの構築 ②勤務医の過重労働の解消 ③女性医師らが勤務しやすい職場環境の整備 ④臨床研修病院の定員の見直し ⑤医療リスクに対する支援 ⑥医師不足地域での医師の養成−です。①は短期的、そのほかは中・長期的な取り組みになります。

 ①の全国的な医師派遣システムですが、これは独立行政法人国立病院機構、日本赤十字社、済生会など全国にネットワークをもつ公的な病院に勤務する医師や、すでに退職した医師を募り、へき地に短期間派遣する仕組みです。

●派遣の第一弾は決まったが…

 ただ、派遣を受けるには条件があります。地域の中核的な役割を担い、過去6カ月以内に勤務医が減り、休診に追い込まれた診療科がある(今後6カ月以内に休診する場合も含む)などの要件をクリアした医療機関に限られます。また、派遣を受けた後には、医師確保に向けた実行計画を策定することが求められます。

 厚生労働省の担当課長はこのプランを発表した日、「明日からすぐに始める」とやる気まんまんだったそうです。実際、6月26日には派遣の要請があった5道県の6病院に対し、日赤や済生会に所属する内科、循環器科、産婦人科の医師らが派遣されることが決まりました。ただ、問題なのはどれぐらい長続きするかです。

 今回の医師派遣システムの一翼を担う国立病院機構には、苦い経験があります。機構が抱える全国146病院のうち、医師不足が深刻な東北地方の3病院に、都市部の病院から緊急的に医師を派遣する制度を昨年9月にスタートしましたが、半年で中止に追い込まれました。理由は単純。医師が病院長からの派遣の打診を拒否したためです。

 専門医志向が強い第一線の医師にとって、へき地医療は「時間の浪費」でしかないようで、中には「どうしても行けというならやめます」と退職をちらつかせる例もあったようです。派遣を断られ続けた結果、病院長ら管理職が派遣先の病院に赴くという苦肉の策で、何とか半年間、制度を維持したのが実情のようです。まさに、医師の「売り手市場」を象徴しています。

●人事権を大学病院が握ることも

 それに、医師を派遣させたくでも、人事権をその医療機関が握っているとは限りません。国立病院機構や日赤の病院、とりわけ都市部の病院には、いまだ関係の深い大学病院から派遣されている医師も少なくありません。多くは高度医療を学ぶのが目的なのですが、もしへき地に派遣されるとなったら「地方で行かせるのなら返してもらう」と大学病院がその医師を引き揚げてしまう可能性もあります。

 厚労省は以前、診療所を開業したり、病院長になったりする条件の1つにへき地勤務を加える提案をしました。つまり、管理者クラスの医師にはへき地医療を義務付けるという提案ですが、自民党や医師会の反対で見送られました。今回も、公明党が義務付けを求めましたが、結局、与党案には反映されませんでした。

 厚労省はこの制度の導入を断念したわけではありません。今回の緊急派遣の仕組みがうまく機能しなければ、また持ち出すことは明らかです。