コラム「みんなの医療制度」 その3

手続きは整っても…−延命治療中止の指針が決定

 もし、あなたの親兄弟、子供が回復の見込みがない末期がんで、もがき、苦しんでいたらどう対応しますか?。奇跡を信じて延命治療を続けますか?それともいっそ延命治療を中止して楽に…

 厚生労働省の「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会」(座長・樋口範雄東京大学大学院教授)が4月にまとめた指針を読むと、こんな重い自問自答が頭の中に浮かびます。確かな答えなどきっとないでしょう。

 指針には、延命治療を中止するプロセスがおおまかに示されています。

 まず、最大に尊重されるのは患者本人の意向で、あらかじめ入院する医療機関の医師らとの間で合意文書を交わすことが求められます。そして、延命治療が欠かせなくなるほど容態が悪化した局面に入ると、医師や看護師らでつくるチームが「慎重に判断する」ことになっています。

 ただ、実際の医療の現場では必ずしも患者本人の意志があらかじめ分かっているとは限りません。事故や脳血管疾患などで緊急入院し、意識不明の重体などに陥った場合などがこれに当たります。この場合には、医師らは家族との話し合いを通じ、患者本人にとって最善の治療法を探ることなどが求められます。

●延命治療やめれば殺人罪に

 人工呼吸器などの管が体のあちこちに挿入され、苦しみ続ける家族は見るに耐えない、という方も中にはいらっしゃるでしょう。それに延命治療には、高額の医療費がかかります。亡くなる直前の1カ月の医療費が1000万円を超えるケースもあります。ほとんどは公的保険から支払われますが、家計に与える負担は少なくありません。

 私がもし末期状態に陥ったら、無用な延命は避けてほしいと願います。家族にも今からそう言い聞かせています。

 ところが現実にはそう簡単にはいきません。現行法では、家族が延命治療の中止を医師に依頼しても、実行した医師が殺人罪に問われることがあるからです。つまり、患者や家族が延命治療をやめてほしいと願っても、医師にしてみれば殺人罪に問われる可能性がある以上、そうやすやすと実行できないのです。

 今回の指針がつくられる直接のきっかけになったのは、昨年、社会的な問題になった富山県の射水市民病院の事件です。この病院の外科部長が家族の意向を尊重する形で、末期患者7人の人工呼吸器を外しました。この外科医は立件されていませんが、1991年の東海大付属病院(神奈川県)、1998年の川崎協同病院(同)の事例では担当医らが殺人罪に問われています。

 このため、患者や家族のためにも、どんなプロセスで延命治療を中止すれば医師や医療従事者が殺人罪に問われないのか、を明確にする必要があったのです。

●最終的な解決法は法制化しかない?

 今回の指針では、いわばそのプロセスを定められたわけです。ただ、指針というのはいわゆる行政指導の一種で、法的な効力はありません。「国が定めた指針なのだから、捜査機関も指針に従って延命治療を中止した医師を殺人罪には問わないだろう」という期待感が厚労省内にもありますが、あくまで期待にすぎません。

 厚労省はこのプロセスをさらに具体化する議論を秋以降にはじめる考えですが、やはり医師が100パーセント安心して延命治療を中止できるようにするには指針ではなく、法制化しかないでしょう。

 いま、超党派の国会議員の間では、尊厳死法案の作成作業が進んでいます。患者本人が延命治療を拒否する場合には、医師が延命治療を停止しても殺人罪が免責されることが柱です。しかし、生命が軽視されかねないとの懸念から法制化という縛りを嫌う意見もあり、いまの国会中の提出を目指してはいますが、なかなか前に進んでいません。


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