コラム「みんなの医療制度」 その18

医療事故は厚労大臣に届け出−「調査委員会」の法案提出へ

 このコラムAで触れた医療版の事故調査委員会の大枠が固まりました。

 厚生労働省は来年の次期通常国会に「医療事故調査委員会(仮称)」を設置(時期は未定)する法案を提出します。治療中に患者が死亡した場合などに、原因分析に当たる組織です。発生した事故を警察でなく、まず厚労大臣に届け出るという仕組みが大きな特徴です。

●本部と支部

 では、具体的にどのような組織になるのか説明します。事故調査委員会はまず、厚労省内に本部、全国7カ所(札幌市、仙台市、さいたま市、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市)の地方厚生局に「地方ブロック分科会」と呼ぶ支部を設置する方向で検討が進んでいます。

 医療事故の原因分析は、現場に近い支部が行います。本部は、支部から集まったデータを基に医療機関や厚労省に対して安全対策の充実を提言するなど、再発防止のための活動が中心になります。

 実際に医療機関で治療中の事故が発生した場合(当面は予期できなかった死亡に限定)、まず医療機関は厚労大臣に届け出なければなりません。そして厚労大臣が本部に調査を求めます。このうち、犯罪の可能性があるものなど、必要なものが本部を通じて警察に通報されるというわけです。

 委員会のメンバーは、医師(臨床医、病理医、法医ら)や弁護士、遺族の立場を代表する人などです。委員会には法律によって調査権限が与えられ、医療機関が拒んでも立ち入り調査をすることができるようにします。また、遺族が直接、委員会に調査を依頼することもできます。

●医療現場の懸念は払拭

 医療機関で死因が明確でない「異状死」が発生した場合、現在は医師法21条により、警察に届け出なければなりません。この仕組みが、医療現場に混乱を与えているということは以前も指摘しました。

 何が「異状死」なのか、具体的に定まっているわけではない上、警察に「医療ミス」と認定されれば医師が逮捕される可能性もあります。警察は、医療行為にもともと存在する「不確実性」、つまり治療はいつも完全ではないということをまったく考慮しません。これでは現場の医師は萎縮し、リスクの高い治療を避けるようになります。

 その不満は昨年2月、帝王切開中の出血で妊婦が死亡し、産科医が業務上過失致死と医師法21条違反で逮捕、起訴された福島県立大野病院の事件を機に、一気に盛り上がりました。この医師は帝王切開で無理に胎盤をはがし、大量出血によって患者を死亡させてしまったとして業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われたのです。

 今回、事故調が設置されることにより、こうした懸念はある程度、払拭されます。ただ、患者が医師や医療機関に不信を抱き、警察に駆け込むことだってもちろんあるでしょう。この場合は、委員会と警察による調査、捜査が並行して進む可能性もあります。明らかに異常な治療をする医師は当然、刑事責任にも問われます。

●医療事故処理のガイドラインも

 厚労省はまた、医療事故の発生に伴って生じる医事紛争処理の解決を早期に進めるため、民間の裁判外紛争処理機関(ADR機関)も活用する考えです。

 金融をめぐる苦情の対応や紛争解決手段を共有するため、金融庁が設置している「金融トラブル連絡調整協議会」を参考に、民間のADR機関が情報交換などをする協議会を設置する予定です。厚労省はこうした協議会を通じ、医療事故の紛争や苦情の解決に役立つガイドラインを作成する予定です。


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