コラム「みんなの医療制度」 その13

患者の視点は置き去りに−診療科名の表示見直しが決着

 医療機関が看板などに掲げることができる診療科名の見直しについて、厚生労働省の検討会で行われていた議論が9月末にようやくまとまりました。以前、コラムCでも紹介しましたが、結論から言うと、何のための見直しだったのか、皆目検討がつかない内容で決着しました。

 あらためて現行制度をおさらいしますが、医療機関が表示できるのは、医療法の政省令で定められた38種類(下記)に限定されています。ですが、明確な基準やルールは存在しません。政治家や学会の働きかけなどにより、そのときどきで段階的に追加されていったというのが実情です。

 このため、専門分化した診療科名をいったん整理し、患者にとって分かりやすくしよう、というのが今回の見直しの狙いでした。

 5月に厚労省が示した当初の見直し案(当初案)では、診療科名を内科、外科など大分類の「基本的な領域」(基本領域)の26診療科に整理し、そのほかの診療科は「補足的な専門領域」(専門領域)として基本領域の後に表記するということでした。

●学会の猛反発に軌道修正

 ところが、いざ提案してみると、基本領域から漏れ、専門領域に“格下げ”された診療科などから猛反発が起こりました。長い歴史の中で築き上げてきた地位をそうやすやすと捨てることはできない、というわけです。

 日本外科学会など外科系6学会は、基本領域から漏れた「呼吸器外科」「心臓血管外科」「小児外科」を救済を求めて厚労省に要望したほか、日本内科学会も「現行の標榜科目は長い歴史の積み重ねで出来たもの。改編するには学会関係者が納得できる明確な根拠が必要」と反対の姿勢を打ち出しました。

 患者団体も動きました。アレルギー疾患の子供をもつ4つの患者団体は公明党に働きかけ、「アレルギー科」を従来のまま基本領域に残すよう求めました。議論は政治の場にも拡大したのです。

 もっとも、学会などこうした反発は単なる「エゴ」とは言えません。当初案では、例えば高度な心臓血管外科を得意とする医療機関もまず基本領域の「外科」を前面に出す必要があるため、何が得意なのか患者に伝わりにくくなります。当初案が必ずしも患者のためになるとは限りません。

 では、どのような形で見直すのが最も効果的なのか。そのための活発な議論が展開されなければならなかったのが、この検討会の場でした。

●中断→水面下の調整へ

 しかし、検討会のオープンな場での議論は6月で中断。9月末まで厚労省が何をしていたかいうと、学会の総本山である日本医学会などを通じ、ひたすら根回しに精を出していたのです。当初は根回しもしませんでしたが、予想以上の反発に軌道修正を余儀なくされたわけです。

 結局、その水面下の交渉でまとまったのが、9月末の検討会で合意された修正案です。一部の委員は「最初の意気込みと、ここに落ち着くまでの間がうやむや」などと苦言を呈しましたが、ときすでに遅し。すでに関係学会と「合意済み」の内容なのですから、もう大きく変更される余地はありません。

 では、どんな内容でまとまったのでしょうか。基本領域や専門領域という枠組みは廃止し、@臓器や体の部位A症状や疾患B患者の特性C診療方法−を内科、外科、歯科と組み合わせることで、広く表記を認める形に改められました。「呼吸器内科(外科)」「糖尿病・代謝内科」といった具合です。

 内科、外科、歯科との組み合わせが難しい場合には、単独で表記できるようにします。小児科や精神科、アレルギー科、リハビリテーション科などがこれに当たり、「小児外科」などのように@〜Cとの組み合わせて表記することも可能です。

●学会の顔を立てただけ

 当初案から何が変わったかといえば、基本領域、専門領域という上下関係をなくし、基本領域から漏れた診療科も従来どおり表記を認めることです。何が患者にとって分かりやすいのか、という視点は完全に置き去りにされました。とにかく学会の顔を立てることが優先されたわけです。

 下記に厚労省が示した表記の例を示しますので、時間がある方はコラムCの中で示した診療科名と見比べていただければ幸いです。

(見直し後に表記できる診療科の例)
 内科、外科、呼吸器内科、呼吸器外科、循環器内科、心臓血管外科、消化器内科、消化器外科、血液・腫瘍内科(血液内科、腫瘍内科)、乳腺外科、小児外科、糖尿病・代謝内科、気管食道外科、内分泌内科、肛門外科、腎臓内科、整形外科、神経内科、脳神経外科、心療内科、形成外科、感染症内科、美容外科、小児科、泌尿器科、精神科、産婦人科(産科、婦人科)、皮膚科、リハビリテーション科、眼科、救急科、耳鼻咽喉科、病理診断科、アレルギー科、臨床検査科、リウマチ科、放射線科(放射線診断科、放射線治療科)、歯科、小児歯科、矯正歯科、歯科口腔外科

 この見直しは来年4月から始まる予定です。ちなみに、「総合科」を新設するという話は棚上げになったままです。


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