コラム「みんなの医療制度」 その10

自治体病院がなくなる日−総務省が改革求める

 都道府県や市町村が運営する病院を自治体病院と呼びます。かつて医療サービスを提供する医療機関が不足していた時代には大きな役割を担っていましたが、官民の病院同士の競争が激化している昨今はむしろ「お荷物」として扱われるようになってきました。

 通常、民間病院であれば、利益の30%は法人税として国に納めます。これに対し、当然ですが自治体病院が支払う税金はゼロです。市町村の一般会計から多額の支援、つまり逆に税金を消費し、ようやく経営が成り立っている状況です。

 厚生労働省のまとめによると、2005年10月現在、全国に自治体病院は1060施設(ベッド数は25万817床)あり、全病院の11.8%(ベッド数では15%)を占めています。これがなぜお荷物かというと、経営状況を見れば一目瞭然です。実は全国の自治体病院のおよそ70%が赤字という状況なのです。

 なぜ、そのような状況になっているかというと、まず考えられるのは人件費の高さです。全国自治体病院協議会が05年6月にまとめた自治体病院と民間病院の経営比較によると、100床当たりの給与費は、民間病院の6793万円に対し、自治体病院は7831万円と、その差は歴然としています。全費用に占める人件費の割合は民間病院50.4%、自治体病院58.3%とやはり開きがあります。

 また、手術などに用いる医療材料費を見ても自治体病院の非効率さが透けて見えます。100床当たりの材料費は、民間病院が3222万円なのに対し、自治体病院は3880万円となっています。

●年内に改革プランの指針を策定

 こうした現状から総務省は、自治体病院の経営改革に本腰を入れ始めました。自治体病院経営に厳しい見方をもつ公認会計士を座長とする「公立病院改革懇談会」を設置したのです。ここで何を検討するのかというと、地方自治体が病院事業の「改革プラン」をつくるのに当たってのガイドライン(指針)を練ることです。

 つい先日決まった政府の基本方針「骨太方針2007」には、総務省が年内に示すガイドラインを参考に、自治体病院の運営について数値目標を設定した改革プランの策定を地方自治体に促すことが明記されました。

 この改革プラン、どんなものになりそうなのかというと、例えば「2011年度までに自治体病院の人件費率を50%に下げる」「2010年度までのベッドの利用率を98%に上げる」などと具体的な数値目標をいくつか示し、それを実行するための具体的な改革の取り組みを明記します。ガイドラインでは数値目標の例をいくつか挙げる予定です。

 総務省は、具体的な改革の取り組みとして3つを想定しています。企業の業務改善に当たる「経営効率化」、複数の自治体病院を統廃合する「再編・ネットワーク化」、経営を民間病院に任せることができる指定管理者制度の活用や民間譲渡委託を含む「経営形態の見直し」です。ほとんどの自治体病院は、いずれかの改革が必要とみられています。

 再編ネットワーク化では、別々の市町村が運営する4つの病院の機能を新設の大規模病院に集約することに成功した山形県の置賜病院組合の例などがあります。もともとあった4つの病院もなくなったわけではなく、ベッドを減らしたり、ベッドのない診療所にしたりするなどスリム化し、大規模病院の衛星施設としての役割を担う形で存続しています。

●再編化を妨げる要因に住民の反対

 自治体病院の改革の話は今に始まったわけではありません。最近では3年ほど前にも総務省が設置した検討会が再編・ネットワークのための報告書をまとめました。これに基づき総務省は、ベッドを減らした場合に有利になる交付金の特例制度などを設けていますが、大きな効果はありません。

 当たり前ですが、自治体病院の運営は、都道府県知事や市町村長の専権事項です。いくら国が「効率化しなさい」と尻をたたいても、地元住民が反対すれば選挙にも影響するわけですから、踏みとどまらざるを得ない事情もあるでしょう。病院のベッドが減ったり、病院から診療所に「格下げ」されることには住民の不安がつきまといます。廃止となれば、いうまでもありません。

 地方分権の流れの中、国の地方への関与は最小限にとどめなければならないという大原則があります。今回の改革プランも国が地方自治体に「つくってほしい」とお願いするだけで、必ずそうしなければならないわけではありません。

 「民間病院がある地域の自治体病院はすべて撤退するべきだ」との意見もありますが、果たして思いどおりの効果が上がるのか、今の段階では何ともいえません。


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